阪大・形成、美容医療に注力 [JHM]
[ 2010/7/1 ]
民業圧迫ではなく大学・クリニックの連携模索(高田教授)
日本に美容整形という診療科目が台頭して何十年の歳月が流れただろう。草創期の頃、標ぼうそのものが医療範囲を逸脱していると揶揄され、白眼視されてきた歴史がある。しかし今や、日本からも多くを学んだ近隣アジア諸国では、この美容医療が正当な医療技術として評価され、国策としてメディカルツーリズムを旗印に、海外からの患者獲得に力を入れ出した。美容外科、抗加齢外科、美容皮膚科とその呼び方はさまざまだが、古今東西、老いも若きも美と若返りを求める願望は変わらないことから、勢い美容医療への関心は高まっている。120歳までのアンチエジングをめざす第一関門—それが外面の美容再生で、そこから内面のアンチエジングを相乗的に達成できる、とする美容医療の価値感と社会的役割が、ここ数年で"主流派医療"(疾病治療)の世界でも認められてきた。本格的な取り組みを始めた大阪大医学部・形成外科の試みは、その象徴といってもいいだろう。
今春開かれた日本形成外科学会で話題を集めた演目があった。『美容医療の展望』と題したランチョンセミナーである。
参加する多くが大学に所属する形成外科医たちが聞き入った内容は、3題の講演で「シワ治療の効果〜フラクショナルレーザー、IPL・トレチノイン外用、アミノ酸サプリメントの内服によるシワ改善効果の評価」(阪大大学院・美容医療学教授・高田 章好MD)、「北大における整形・美容外科診療」〜大学機関の美容外科診療実態調査、美容医療相談外来」(北大・形成外科教授・山本 有平MD)、「大学機関の美容外科診療実態調査、美容医療相談外来の統括」(阪大教授 矢野 健二MD)【司会:阪大医学部・形成外科教授・細川 亙MD】だ。
このランチョンでは、とりわけ国立大系医学部が美容医療に対して積極的な取り組みを模索していることが伺え、参加した形成外科の専門医にとっては自らの医療に対するパラダイムシフトともいえる衝撃を与えたはずだ。
「昔は再建外科か、美容外科で色分けしていた。また、美容医療を従来の医療と同じように部位、臓器の区分で考えています。しかしもはや、この医療、医術は総合的な医療として捉えないといけない。基本となるのが美容外科、美容内科、美容皮膚科です」
こう指摘するのは高田教授。
自らの演題にもこうした外面、内面からの美容医療へのアプローチについて臨床成果をまとめていた。
高田教授、先天奇形の再建形成外科がその専門。長く公的病院で、顔面神経が走る耳下腺腫瘍や、眼下底骨折などの極めてむずかしいオペを行なってきた。3次元的な臨床解剖学を身をもって経験する。その後、請われて民間の美容整形クリニックに就く。乳房再建の経験も積んできたことから、そのクリニックでバストの美容整形をもっぱら行ない、フランチャイズ3院の総院長として5年間で3000症例にも及ぶ施術をこなした。
そして、寄附講座ではあるが、阪大初の美容医療の開設にあわせて教授に着任した。
再建・形成外科のスペシャリストとして、また勤務医だけでなく美容整形のプライベートクリニックにも長く身を置き、医療と経営のバランスが求められる美容整形の世界をも経験した高田医師だからこそのポジションだったといえる。
着任後、早速開設した形成外科「美容医療相談外来」には、美容整形の術後に生じた技術的な違和感やデザインに対する不満足感などを訴える患者も少数ではあるがいるという。また中には民間クリニックを選択する際の第3者機関として来院する患者も少なくない。
「患者さんには美容医療の正しい情報や施術に対する理解をえてもらうために、阪大ではセカンドオピニオン外来としての位置づけをしています」
また高田教授、競合激化で経営の建て直しに迫られるプライベートクリニックの相談にも乗っているというからおもしろい。
大学の形成外科が美容医療に参入!と聞いて、"民業圧迫"ととられかねないことから、「あくまで大学と民間の美容医療クリニックが連携していくことこそ大切である」と高田教授は強調する。
大学院での職務、外来、週末を中心とした医学会での招聘講演をこなす多忙な毎日だが、関西圏、首都圏のクリニックにも施術の指導を行なっていることが、前述の発言の何よりの証拠だ。
最も肝心なことは、まず形成外科と美容整形の垣根をこえて、共にアンチエジングのための美容医療という共通認識にたって、患者のための施術の改良と、信頼をさらに得られるような技術とホスピタリティーの充実をめざすことだろう。
そのためにも、形成外科出身者のみならず、広く美容医療をめざす人材の育成と教育が大事だとして、大学と民間クリニックとの教育の連携も視野に入れていくという。
(JHM94号より)