アーユルヴェーダの医師向けスクール開校 [JHM]
[ 2010/4/16 ]
実習では本格的な指導が行なわれる
1994年に開校し、本格的な医療・科学としてのアーユルヴェーダの専門家を養成してきた『日本アーユルヴェーダ・スクール』。すでに700名以上が卒業しており、その中には、50名余りの医師が含まれている。卒業した医師の中には、本場インドでの体験の後、日本において、本格的なアーユルヴェーダのクリニックの開設を計画中の医師もいる。これまで、医師であっても通常のクラスの受講しか、選択肢が無かったが、急増する医師の受講に対して、『日本アーユルヴェーダ・スクール』は、2007年より医師向けのスクールを開校している。
臓器別の専門に分断され、病気の症状に対する、対処療法が西洋医療の欠点といわれ、全人的に患者を診るための統合医療という概念が近年定着しつつある。
一方アーユルヴェーダは、最も古い医療体系でありながら、現代のインドでも、主流医療のひとつとして行われ、臓器別ではなく、病気の原因から、治療を行うのみならず、予防やアンチエイジングの視点までも内包している、魅力的な医療だ。東洋医学の礎であるともいわれ、5000年以上の歴史を持ち、その歴史の中で治療的な効果が経験則によって裏付けられ、単独でも統合的・全人的に患者をケアすることが出来るアーユルヴェーダ。
日本では先行してエステティックサロンなどに、オイルマッサージとして、その技法が“部分的”に導入されてしまったため、誤ったイメージを持たれがちだが、『日本アーユルヴェーダ・スクール』は、インドの古典書に基づいた生命科学としてのアーユルヴェーダの教育機関だ。
校長のクリシュナU.K氏は、インドでアーユルヴェーダの専門家であるだけでなく、日本においても岡山大医学部において、医学博士号を取得、補完代替医療が盛んな米国の医療系大学の客員教授でもある人物。主な講師陣はインドにおいてアーユルヴェーダとともに西洋医学の教育を受けたアーユルヴェーダ医師やアーユルヴェーダの研究を行っている西洋医療の医師、いわば西洋医療とアーユルヴェーダの双方の専門家とも言える。
それらの講師陣であるからこそ、日本の環境や医療の状況を踏まえ、本来のアーユルヴェーダの基本を崩すことなく、医療としてのアーユルヴェーダを、日本の医師に対して教育できるのだ。
本来は1日6時限×36日間と2泊3日の合宿で行われる本科コースを、医師に対しては、1日8時限(実習含む)×15日間で提供する。基本的な人体の知識や西洋医学に対する説明を極力排除し、忙しい医師に対して、アーユルヴェーダの基礎が学べるように配慮してある。もちろん医師向けの専門プログラムであるからには、充分に医学的な情報も提供される。
卒業生の医師の中には、西洋医療では治療できなかった糖尿病と痛風の数値が、アーユルヴェーダの一週間の治療によって改善した患者を目の当たりにしている。
俄かには信じられないかもしれないが、例えば痛風では、西洋医療では発作に対して抗炎症薬やステロイド、高尿酸値に対しては、尿酸降下薬が基本的な考え方だ。
一方、アーユルヴェーダでの痛風は“ヴァータ・ラクタ”と呼ばれており、これはヴァータ=風エネルギー、ラクタ=血液組織、という意味だ。この場合の風エネルギーとは主に神経系などの働き。食生活などで汚染されたラクタを持つ人が、ヴァータを乱した場合、増加したラクタが経路(血管など)を閉塞し、それによりヴァータが悪化する。更に悪化したヴァータとラクタが互いに乱し合うことからこの名がついている。この風エネルギーなどは乱れやすいので、ドーシャ=病素と呼ばれ、これらが蓄積され病気が発現すると考えられている。
したがって、ヴァータ・ラクタに対しては、薬草成分を含んだオイルマッサージのような前処置によって、悪化したドーシャを組織から引き剥がし、血中や消化器官などに導き、瀉血や嘔吐、便として排泄させるための手段が中心処置として行われる。
無論、後処置として、食事療法や生活指導が行われることはいうまでもない。
西洋医療では、健康と病気には明確な違いがあり、病気と診断されないものには、治療のすべがない。近年ではそれに加え未病という考え方が加わったくらいだ。
アーユルヴェーダは、健康から病気に至るまでに、6つの段階があると考える。ドーシャ=病素が①蓄積した後②増悪し、それが体中に③拡散し、弱い部分に定着する④局限、そして症状が現れる⑤明白、そしてその症状が⑥区別される。これらのどの段階にあるかについて診断ができ、どの段階においてもケアできることが、アーユルヴェーダの優れた点だ。
本稿ではアーユルヴェーダが医療体系であると繰り返しているが、その医療体系は西洋医療のそれとは全く違い、予防医療を大変に重視した医療体系なのだ。
西洋医療は、生活習慣病のような慢性疾患に対しては、症状を取り去ることが精一杯の医療であるといえる。西洋医療での予防医療は、少なくとも日本においては、“病気”の早期発見・早期治療でしかない。
それに対して、アーユルヴェーダは、生活習慣指導から、治療的な介入までが、ひとつの連続した医療体系だ。生活習慣病に悩まされる,現在の日本において、最も必要とされる医療体系といっても過言ではない。
アーユルヴェーダには、食べ合わせや、体質に合わせた食物の選択方法、運動や睡眠に至るまで、5000年の歴史に培われた経験則から導き出された、健康を維持・増進するための叡智が蓄積されている。
その叡智を本当の意味で使えるのは、日本国内では医師だけだ。当然のことながら、アーユルヴェーダの処置の中には、瀉血や嘔吐を促したり、バスティー=経腸法といわれる、薬剤を浣腸させる方法など、医療行為が数多く含まれている。それを行わなければ、アーユルヴェーダとしては、完結しないのだ。(但し、スクールの授業では、医療行為とされるものに関しては理論と製法のデモンストレーションのみで実践は行わない)
アーユルヴェーダの叡智を取り入れることで、日本の医療的な環境は激変するかもしれない。そのためには、医師がアーユルヴェーダを学ばなければならない。その機会は既に提供されているのである。
本稿についてご興味のある読者は、お早めに『日本アーユルヴェーダ・スクール』03‐3662‐1384までご連絡を。本年の医師向けコースは5月3日より開催される。土曜日と日曜祝日の開催となっている。
(JHM92号より)