病院の株式会社経営、是か非か [JHM]
[ 2010/2/24 ]
再燃する医療特区の議論
現在、神奈川のバイオ医療特区のみとなっている、医療特区制度。美容的な再生医療のみを対象として、株式会社バイオマスターが経営する、セルポートクリニック横浜のみが、その制度の実体となって久しい。
政府の構造改革特別区域推進本部評価・調査委員会は先日、医療・福祉・労働部会から、株式会社の医療機関経営の全国展開を見送ることなどが盛り込まれた評価意見の報告を了承した。引き続き検討を行い、2011年度に改めて評価をおこなうのだという。
さかのぼって、昨年末、医療・福祉・労働部会の委員から特区の拡大を努力するよう、厚生労働省に求める意見が上がっていた。それに対し、日本医師会は、公的医療保険制度を揺るがしかねない問題との認識を示したという。
株式会社による医療機関経営の問題点は、利益確保のための、(1)医療の質の低下(2)不採算部門などからの撤退(3)公的保険範囲の縮小(4)患者の選別(5)患者負担の増大(6)税金による配当-を挙げたという。
その後、先述したように株式会社による医療機関経営の議論は先送りとなってしまった。
しかし、現実には既に、産科や小児科医療などは、地域によって、満足な状況とは言えず、医療費の高騰によって、度重なる診療報酬の切り下げで公的保険の範囲は縮小され、これまでも患者の自己負担割合は増大してきているのである。
また、個人経営クリニックでは、保険診療のみで経営を安定させることが難しく、自由診療を視野に入れ、開業する施設も多い。歯科のクリニックでは、インプラントやホワイトニングなど保険外治療は、経営の基礎になりつつある。遅かれ早かれ、医科クリニックもそのような業態に移行していくとみられている。
株式会社による医療機関経営が今の医療の問題を、全て解決する打ち出の小槌になるとは思えないし、プライバシーの確保など、危うい側面が多々あることは否めない。
その一方で、医療機関が少ない地方部などは、株式会社の論理から言えば、ライバルの少ないマーケットの空白地帯とも言え、高齢者が多いこうした地域では、安定した保険収入が見込め、交通の確保さえ出来れば、魅力的な商売と映るかもしれない。現代の医療が抱える問題も、営利の面から考えれば、別の見方が成り立つ場合もある。
そして、トヨタやキッコーマンなどによる、企業立病院は、今や立派に地域医療を支える、その地域になくてはならない病院となっている。施設によっては、その企業の関係者よりも、地域の患者の法が多い企業立病院もあるのだ。
さらに、現在の特区と同様に、美容や再生医療についての病院であれば、もともと自由診療なのだから、コストによる患者の差別や保険制度を揺るがす問題にはならないのではないだろうか?それについては既にセルポートクリニック横浜が、一つの答えとなっている。
自由診療に求められる患者のニーズは多様で移り気だ。全国一律に良質の医療を提供しようとしてきたこれまでの医療の本質とは対極にあるといってよい。わがままなでニッチなニーズを捉えていくことは、これまで株式会社などが、得意としてきた分野だ。
医師はこれまで、経営という呪縛にとらわれてきた。しかし、優れた医師は、優れた経営者になる必要はなく、経営のプロの手腕を借り、望む医療の提供だけを考えるという選択肢も、今後は検討する余地があるのではないだろうか?
(JHM91号より)
現在、神奈川のバイオ医療特区のみとなっている、医療特区制度。美容的な再生医療のみを対象として、株式会社バイオマスターが経営する、セルポートクリニック横浜のみが、その制度の実体となって久しい。
政府の構造改革特別区域推進本部評価・調査委員会は先日、医療・福祉・労働部会から、株式会社の医療機関経営の全国展開を見送ることなどが盛り込まれた評価意見の報告を了承した。引き続き検討を行い、2011年度に改めて評価をおこなうのだという。
さかのぼって、昨年末、医療・福祉・労働部会の委員から特区の拡大を努力するよう、厚生労働省に求める意見が上がっていた。それに対し、日本医師会は、公的医療保険制度を揺るがしかねない問題との認識を示したという。
株式会社による医療機関経営の問題点は、利益確保のための、(1)医療の質の低下(2)不採算部門などからの撤退(3)公的保険範囲の縮小(4)患者の選別(5)患者負担の増大(6)税金による配当-を挙げたという。
その後、先述したように株式会社による医療機関経営の議論は先送りとなってしまった。
しかし、現実には既に、産科や小児科医療などは、地域によって、満足な状況とは言えず、医療費の高騰によって、度重なる診療報酬の切り下げで公的保険の範囲は縮小され、これまでも患者の自己負担割合は増大してきているのである。
また、個人経営クリニックでは、保険診療のみで経営を安定させることが難しく、自由診療を視野に入れ、開業する施設も多い。歯科のクリニックでは、インプラントやホワイトニングなど保険外治療は、経営の基礎になりつつある。遅かれ早かれ、医科クリニックもそのような業態に移行していくとみられている。
株式会社による医療機関経営が今の医療の問題を、全て解決する打ち出の小槌になるとは思えないし、プライバシーの確保など、危うい側面が多々あることは否めない。
その一方で、医療機関が少ない地方部などは、株式会社の論理から言えば、ライバルの少ないマーケットの空白地帯とも言え、高齢者が多いこうした地域では、安定した保険収入が見込め、交通の確保さえ出来れば、魅力的な商売と映るかもしれない。現代の医療が抱える問題も、営利の面から考えれば、別の見方が成り立つ場合もある。
そして、トヨタやキッコーマンなどによる、企業立病院は、今や立派に地域医療を支える、その地域になくてはならない病院となっている。施設によっては、その企業の関係者よりも、地域の患者の法が多い企業立病院もあるのだ。
さらに、現在の特区と同様に、美容や再生医療についての病院であれば、もともと自由診療なのだから、コストによる患者の差別や保険制度を揺るがす問題にはならないのではないだろうか?それについては既にセルポートクリニック横浜が、一つの答えとなっている。
自由診療に求められる患者のニーズは多様で移り気だ。全国一律に良質の医療を提供しようとしてきたこれまでの医療の本質とは対極にあるといってよい。わがままなでニッチなニーズを捉えていくことは、これまで株式会社などが、得意としてきた分野だ。
医師はこれまで、経営という呪縛にとらわれてきた。しかし、優れた医師は、優れた経営者になる必要はなく、経営のプロの手腕を借り、望む医療の提供だけを考えるという選択肢も、今後は検討する余地があるのではないだろうか?
(JHM91号より)