点滴をする前に、知っておきたい持続性ビタミンC [JHM]
[ 2009/11/26 ]
高濃度ビタミンC点滴の普及に伴って、ビタミンCのサプリメントを活用する医師が急増している。あまりにも一般的で、これまで省みられることの無かったビタミンCサプリが、一躍脚光を浴びているのだ。そこで、本稿では、多くの医師が使用していると思われる、持続型のビタミンCサプリメントについて、岡山大学名誉教授 山本 格 氏にお話をうかがった。
岡山大学名誉教授 山本 各氏
現在、ビタミンCサプリメントの多くは、トウモロコシやキャッサバ由来の澱粉から、発酵法で合成されたものがほとんどである。アセロラなどの天然型のビタミンCサプリメントも存在するが、ビタミンCのみを比較的大量に摂取しようとすると、合成品にくらべ、とても高価になってしまうため、一般的ではない。
であるならば、全てのビタミンCサプリは同じものかというと、そうではない。例えば、あるサプリメントは、酸性であるビタミンCのpHを調整することで、大量に摂取しても、下痢をしないような工夫をしていたり、本稿で述べる血中濃度を持続的に高く保つ工夫がしてあるものなど、意外に差別化された商品も多い。
なぜ、血中濃度を持続的に高く保つ必要があるのか?高濃度ビタミンC点滴を行うということは、ビタミンCに栄養素としてではなく、薬理作用を期待してのことだ。日常的にビタミンCが欠乏状態にあると、その欠乏を満たすために、ビタミンCが消費され、がんに対しての薬理効果を期待して大量に点滴されたビタミンCが、必要な濃度まで、上がらないのではないか?という推論に基づいている。
ヒトと同様、ビタミンCを体内で合成できないゴリラやチンパンジーは、一日に何度も木の葉や果実を摂取することで、体内のビタミンC濃度を保っている。しかし、同様の食生活をわれわれが行うには、無理がある。そこでビタミンCの血中濃度を出来るだけ長い時間、高く保つ工夫が必要になってくる。
その工夫の一つがビタミンC誘導体だ。サプリメントよりも、化粧品などでその名称を聞く機会が多い、すでに当たり前に聞かれる名称といっていいだろう。
では、ビタミンC誘導体とは何だろう。世界で初めて、ビタミンC誘導体を発見したのが、現在岡山大学名誉教授の山本 格 氏だ。山本氏の開発したビタミンC誘導体に対して、資生堂が独占契約を結び、美白目的の化粧品や医薬部外品として、広く消費者に知られることとなる。その開発の経緯について、山本氏に伺った。
当時岡山大学教授だった山本氏は、ビタミンCについて、薬理学や免疫学の手法を用いて、細胞・個体レベルでの研究を行っていた。
細胞内での代謝や、動物の体内での薬物動態を調べようとすると、ビタミンCは非常に壊れやすく、その動態をつかむことは困難を極めた。
そのため、なぜ壊れるのかを調べると、ビタミンCに4つある水酸基の内、第2の位置に酸素が結合することで、ビタミンCはスーパーオキシドアニオンという活性酸素種になってしまうのだという。
この位置に酸素が結合できないようにすれば、ビタミンCは、反応性が低くなり、安定的な物質になる。この予測に基づいて、安定型ビタミンCを模索する、山本氏の研究がスタートする。
その過程で、α‐グルコシダーゼの一つ、マルターゼが、特定の条件下で、この位置にグルコースを結合させる機能を発見する。この酵素の発見によって、ビタミンCの2の位置にグルコースを結合させた、ビタミンCのグルコサイド=配糖化アスコルビン酸、『AA-2G』を得ることに成功する。
ビタミンCの2の位置にグルコースが結合している『AA-2G』は、酸素と結合できないため安定しており、酸素や熱、光などで変性しないビタミンCといえる。
マルターゼはヒトの体内にも豊富に存在する。大量にビタミンCとグルコースを摂取すれば、体内でも『AA-2G』が生成される可能性はある。
しかし、一般的にマルターゼは、グルコシド結合を加水分解する反応を触媒する酵素で、麦芽糖など多糖類をグルコースなどの単糖に分解する活性が強い。
そのため、体内でビタミンC誘導体が生成されることは無く、その一方で、摂取された『AA-2G』は、α‐グルコシダーゼによって、結合しているグルコースがはずれ、ビタミンC本来の姿となって腸管から吸収される。
この安定しているということはビタミンCにとって、非常に重要な要素の一つではあるが、それに加えて体内で血中濃度を高く保つ、ということが重要である。
ビタミンCは、摂取されてから体外に排泄されるまでの半減期は一説によると30分程度とも言われるほど、体内の滞留時間が短い物質だ。サプリメントなどで、純粋なビタミンCとして摂取されれば、還元型ビタミンCのトランスポーターSVCT(ソディムディペンデント・ビタミン・C・トランスポーター)を通じて速やかに吸収され、吸収されないビタミンCは、血中にとどまったまま、排泄されてしまう。SVCTには限りがあるため、大量に摂取すれば、その分だけ大量に細胞に吸収されるわけではない。
それに対し、『AA-2G』は、腸管内にゆるやかに分泌されるα‐グルコシダーゼによって、少しずつ加水分解されることで、腸管からの吸収が穏やかに行われる。通常のビタミンCよりも血中濃度の上昇は緩やかになり、一定の濃度を長く保つことが出来る。限られた数のSVCTに結合する機会が増加することで、無駄に排泄されるビタミンCが少ないと思われる。
実は食品に含まれるビタミンCの量は、配合量であって含有量でないものも多い。また、サプリメントの品質劣化でよく知られるものに、褐変という状態があるが、これはビタミンCが変性して起きていることが多い。
このようなサプリメントを摂取しても、効果は期待出来ないが、ビタミンCがあまりにもポピュラーで、安価な素材だったため、注意を払われないことも多かった。
ここにきて、高濃度ビタミンC点滴が普及するにつれ、日常的なビタミンCの摂取の重要性が見直され、クオリティーの高い、ビタミンCサプリメントが求められ始めている。
山本氏が開発した、ビタミンC誘導体を用いたサプリメントは、扶桑化学工業の『持続型ビタミンC500&クエン酸』などに使用されている。
巷にあふれているビタミンCサプリであるからこそ、品質を見極めた上で使用してほしい。
(JHM88号より)
岡山大学名誉教授 山本 各氏
現在、ビタミンCサプリメントの多くは、トウモロコシやキャッサバ由来の澱粉から、発酵法で合成されたものがほとんどである。アセロラなどの天然型のビタミンCサプリメントも存在するが、ビタミンCのみを比較的大量に摂取しようとすると、合成品にくらべ、とても高価になってしまうため、一般的ではない。
であるならば、全てのビタミンCサプリは同じものかというと、そうではない。例えば、あるサプリメントは、酸性であるビタミンCのpHを調整することで、大量に摂取しても、下痢をしないような工夫をしていたり、本稿で述べる血中濃度を持続的に高く保つ工夫がしてあるものなど、意外に差別化された商品も多い。
なぜ、血中濃度を持続的に高く保つ必要があるのか?高濃度ビタミンC点滴を行うということは、ビタミンCに栄養素としてではなく、薬理作用を期待してのことだ。日常的にビタミンCが欠乏状態にあると、その欠乏を満たすために、ビタミンCが消費され、がんに対しての薬理効果を期待して大量に点滴されたビタミンCが、必要な濃度まで、上がらないのではないか?という推論に基づいている。
ヒトと同様、ビタミンCを体内で合成できないゴリラやチンパンジーは、一日に何度も木の葉や果実を摂取することで、体内のビタミンC濃度を保っている。しかし、同様の食生活をわれわれが行うには、無理がある。そこでビタミンCの血中濃度を出来るだけ長い時間、高く保つ工夫が必要になってくる。
その工夫の一つがビタミンC誘導体だ。サプリメントよりも、化粧品などでその名称を聞く機会が多い、すでに当たり前に聞かれる名称といっていいだろう。
では、ビタミンC誘導体とは何だろう。世界で初めて、ビタミンC誘導体を発見したのが、現在岡山大学名誉教授の山本 格 氏だ。山本氏の開発したビタミンC誘導体に対して、資生堂が独占契約を結び、美白目的の化粧品や医薬部外品として、広く消費者に知られることとなる。その開発の経緯について、山本氏に伺った。
当時岡山大学教授だった山本氏は、ビタミンCについて、薬理学や免疫学の手法を用いて、細胞・個体レベルでの研究を行っていた。
細胞内での代謝や、動物の体内での薬物動態を調べようとすると、ビタミンCは非常に壊れやすく、その動態をつかむことは困難を極めた。
そのため、なぜ壊れるのかを調べると、ビタミンCに4つある水酸基の内、第2の位置に酸素が結合することで、ビタミンCはスーパーオキシドアニオンという活性酸素種になってしまうのだという。
この位置に酸素が結合できないようにすれば、ビタミンCは、反応性が低くなり、安定的な物質になる。この予測に基づいて、安定型ビタミンCを模索する、山本氏の研究がスタートする。
その過程で、α‐グルコシダーゼの一つ、マルターゼが、特定の条件下で、この位置にグルコースを結合させる機能を発見する。この酵素の発見によって、ビタミンCの2の位置にグルコースを結合させた、ビタミンCのグルコサイド=配糖化アスコルビン酸、『AA-2G』を得ることに成功する。
ビタミンCの2の位置にグルコースが結合している『AA-2G』は、酸素と結合できないため安定しており、酸素や熱、光などで変性しないビタミンCといえる。
マルターゼはヒトの体内にも豊富に存在する。大量にビタミンCとグルコースを摂取すれば、体内でも『AA-2G』が生成される可能性はある。
しかし、一般的にマルターゼは、グルコシド結合を加水分解する反応を触媒する酵素で、麦芽糖など多糖類をグルコースなどの単糖に分解する活性が強い。
そのため、体内でビタミンC誘導体が生成されることは無く、その一方で、摂取された『AA-2G』は、α‐グルコシダーゼによって、結合しているグルコースがはずれ、ビタミンC本来の姿となって腸管から吸収される。
この安定しているということはビタミンCにとって、非常に重要な要素の一つではあるが、それに加えて体内で血中濃度を高く保つ、ということが重要である。
ビタミンCは、摂取されてから体外に排泄されるまでの半減期は一説によると30分程度とも言われるほど、体内の滞留時間が短い物質だ。サプリメントなどで、純粋なビタミンCとして摂取されれば、還元型ビタミンCのトランスポーターSVCT(ソディムディペンデント・ビタミン・C・トランスポーター)を通じて速やかに吸収され、吸収されないビタミンCは、血中にとどまったまま、排泄されてしまう。SVCTには限りがあるため、大量に摂取すれば、その分だけ大量に細胞に吸収されるわけではない。
それに対し、『AA-2G』は、腸管内にゆるやかに分泌されるα‐グルコシダーゼによって、少しずつ加水分解されることで、腸管からの吸収が穏やかに行われる。通常のビタミンCよりも血中濃度の上昇は緩やかになり、一定の濃度を長く保つことが出来る。限られた数のSVCTに結合する機会が増加することで、無駄に排泄されるビタミンCが少ないと思われる。
実は食品に含まれるビタミンCの量は、配合量であって含有量でないものも多い。また、サプリメントの品質劣化でよく知られるものに、褐変という状態があるが、これはビタミンCが変性して起きていることが多い。
このようなサプリメントを摂取しても、効果は期待出来ないが、ビタミンCがあまりにもポピュラーで、安価な素材だったため、注意を払われないことも多かった。
ここにきて、高濃度ビタミンC点滴が普及するにつれ、日常的なビタミンCの摂取の重要性が見直され、クオリティーの高い、ビタミンCサプリメントが求められ始めている。
山本氏が開発した、ビタミンC誘導体を用いたサプリメントは、扶桑化学工業の『持続型ビタミンC500&クエン酸』などに使用されている。
巷にあふれているビタミンCサプリであるからこそ、品質を見極めた上で使用してほしい。
(JHM88号より)