「免疫機能を維持する」など効果表示解禁へ
4兆円産業創出と膨らむ医療費抑制へ
㈱ヘルスビジネスマガジン社 代表取締役会長
木村 忠明氏
「免疫機能を維持する」などの効果表示を健康食品に認める新たな機能性表示制度が消費者庁で検討されている。そして来年2015年の4月スタートを目指して山場を迎えている。
これはアベノミクスの第3の矢「日本再生戦略」の柱の一つである、健康寿命の延伸産業として健康食品が位置付けられたことによる措置で、これにより4兆円産業創出と、一方で同時に膨らむ医療費の抑制に役立てようとの意図もある。
11月28日に東京・有楽町の糖業会館で機能性表示をテーマにしたセミナーが行われた。会場は多数の健康食品の企業参加者で熱気にあふれていた。
テーマは新制度で効果を支えるエビデンスシスについてであった。アメリカに本社を置く世界的な食品原料企業ケミン社日本法人の橋本社長が、加齢性黄斑変性症に効果のあるルテインのデータを通じて、この制度で要求されるシステマティックレビューについて話をした。ルテインは昨年5月にアメリカ眼科学会の総会で加齢性黄斑変性症の効果が明らかになり世界的な話題となった。
研究ではルテイン以外にゼアキサンチン、ビタミンCとE、亜鉛を加えた処方(AREDS)のサプリメントを4000人に与え、加齢性黄斑変性症の病気の進行のリスクを25%低下することが明らかになった。これは国立眼科研究所が行った研究で、アメリカ眼科学会が治療のガイドラインにこのAREDSを加えた。日本の眼科学会もガイドラインにこの処方を加え、眼科の開業医の多くがサプリメントを患者に使うようになっている。
表示先進国アメリカNIH300億研究費
米国国立衛生研究所(NIH)ではこのほかにもサプリメントの有効性の検証に毎年300億円以上の研究費が費やされている。
続いて講演に立った規制改革会議委員の森下竜一氏(大阪大学医学部)は「先ほどの話は厳しすぎる」と現実に消費者庁が進めている新制度のガイドラインに言及した。
新制度は昨年安倍内閣が“アベノミクスの第3の矢”としてまとめた「日本再生戦略」の中に盛り込み、サプリメントの機能表示制度を作ることを明らかにした。これを主導したのが国の規制改革会議で、森下氏はこの健康食品分野の担当である。
これを受けて昨年12月食品の表示を受け持つ消費者庁に検討会が発足、今年8月には報告書をまとめられた。消費者庁はこれを受けて9月に新制度案を公表、最終的な規則の取りまとめ作業に入っている。後は制度の詳細を定めたガイドラインが公表されれば4月制度スタートというスケジュールになる。
求められるエビデンスには2通り
新制度案では成分・原料の安全性、有効性、製造基準、有害報告などの内容などが盛り込まれており、なかでも議論の中心は有効性を支えるエビデンスの在り方だ。
基準案では末端商品で有効性を検証した独自なデータがあるものと、独自なデータがなくとも成分レベルでシステマティックレビューを実施して効果を証明したもののどちらかのエビデンスを要求している。独自のデータは特定保健用食品レベルのデータが必要としており、臨床試験(RCT)が必要となるが、もう一つの選択肢の成分・原料レベルでは、システマティックレビューで有効性を検証し、少なくとも1本の査読のあるRCTが必要とされる。
自前のデータが必要ないため、多くの企業がこのシステマティクレビューの方を選択するとみられるが、これを巡って多少の混乱が起きている。
消費者庁が要求するレビューが具体的になっていないため、科学論文のシステマティックレビューはどの程度のものが適当かということが分からない。さらに消費者庁が研究データは「健康人で境界線まで」を対象としたものと主張しているからだ。
こうした混乱を早く解決すべきであろう。
とはいえガイドラインの発表は2月頃とみられ、それまでにはこれらの問題が決着することを願う。企業は制度に合わせて消費者庁に届出を行うことになるが、受理されれば「免疫機能を維持する」、「酸化ストレスを低減する」といった機能表示のサプリメントが世に出ることになる。
(JHM124号より)