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「ヒアルロン酸で失明」 韓国症例を中間医師が明らかに JAASアカデミー第1回公開講座で

[ 2014/8/26 ]

低侵襲術でも侮るなかれ解剖学実習の必要性説く

先ごろ開催されたJAASアカデミー第1回春季公開講座で、中間 健アカデミー副学長が「ヒアルロン酸注入による視力消失」の最新の報告を明らかにした。仁済大(医)眼科に運ばれた急患の症例とそれに伴う処置について投稿された論文を、中間医師が韓日翻訳しながら解説した。「決して他人事ではない。美容医療にあって低侵襲であっても、こうした医療事故は起こりうる。対岸の火事として見過ごさず、安全性を重視した注入スキルを磨くことが大事」としながら、一方で、神経、血管走行など解剖学の重要性を改めて指摘した。そのためには、JAASアカデミー恒例の「美容外科解剖・執刀トレーニング」で実践の解剖実習を経験していく必要性も説いている。講演の中で、中間医師はまた、本症例の患者が美容目的で眉間に5回に渡ってヒアルロン酸注入を受けた際、滑車上動脈や眼窩上動脈からヒアルロン酸が逆流し、眼動脈を閉塞しながら、内頚動脈にまで及び脳内にその影響が及んだのではないか?とも推察している。

120号2面 中間先生

眉間へのヒアルロン酸注入後に発生した完全外眼筋麻痺を伴った視力消失例
韓国ソウル 仁済大医学部 眼科学教室 
大韓眼科学会誌報告  翻訳 中間 健MD


目的

 美容目的のために眉間にヒアルロン酸を注入した後、外眼筋麻痺を伴った視力消失と多発性の局所脳梗塞が発生した症例を経験したので、これを報告する。
症例報告

2

 25歳の女性患者は、突然出現した右眼の視力低下を主訴として本院緊急治療室に来院した。裸眼視力の右目にてno light perception、左視力は0.15だった。ゴールドマン眼圧計で測定した眼圧は右目9㎜Hg、左目11㎜Hgであった。右側に瞳孔反射異常の所見と眼瞼下垂を伴った完全な外眼筋麻痺を認め、眼底検査で蒼白化された視神経乳頭と共に後極部網膜の混濁が観察された。また、中心窩には桜実紅斑が現れ、網膜の血管が細くなって分割されていた。
 本院来院直前に、他の病院で美容目的でヒアルロン酸注入を約5回にわたり、眉間に施術された。注入当時、めまいと体に衝撃様の症状が出現したため、すぐに施術をやめヒアルロニダーゼ注入を行い安静処置をとったが、眼瞼下垂と視力消失を主訴に来院した。蛍光眼底血管造影検査で右目の網膜動脈の閉鎖が観察され、右目の網膜と脈絡膜の血流障害が原因で右目全体の網膜の広範囲な虚血性の損傷の所見がみられた。
 眼窩を含む脳のMRI検査では、視力消失を引き起こす可能性の視神経に特別な病変が観察されなかったが、両側前頭葉に多発性の局所脳梗塞が観察され視覚誘発電位検査では左目は正常であったものの、右目では振幅が表示されなかった。

治療・処置

 患者には、注入直後よりすぐに眼のマッサージを施行し、入院してアスピリンの経口投与と250㎎のメチルプレドニゾロン(Solumedrol-PharmaciaUSA)を6時間間隔で1日4回、合計1gを3日間静脈内注射し、皮膚に生じた部位に抗生物質を塗布し、2日に一度暖かい温潤ドレッシングを実施した。
 症状発生後7日目、右目の視力はまだno light perceptionだったが、眼瞼下垂と外眼筋麻痺は若干の好転した所見をみせ、右眼眼底検査で網膜の血管が少しづつ潅流を開始した。症状発生後2か月目、右眼の眼瞼下垂と外眼筋麻酔は部分的に好転したが、まだ視力消失は残った。15プリズムディオプターの外斜視が明らかになった眉間周辺の皮膚の潰瘍部位も好転した所見を示している。症状発生1年後の最終経過観察時に右眼の眼瞼下垂と外斜視はすべて好転したが、右眼+1程度の上斜筋の更新と30プリズムディオプドの外斜視が明らかになった。視力はno light perceptionのまま回復していない。

考察

 美容目的で使用されるフィラー剤の種類は多様で、最近では施術のしやすさや美容的効果の増大により、多くの分野で需要は高い。
 しかし、同時に副作用も出現されることがあり、フィラー注入術に伴う副作用には痛み、出血、浮腫、紅斑などの軽いものから、視力消失、組織壊死、脳梗塞など生命そのものに影響を与えてしまうものまで、多様な報告がされている。そうした報告例には、シリコンオイル、ポリメチルメタクリレート、パラフィン、コラーゲン、カルシウムハイドロアパタイトなどフィラーによる網膜動脈閉鎖などである。
 本症例は、眉間にヒアルロン酸フィラー注入後に、網膜動脈閉鎖による視力消失、完全外眼筋麻痺、多発性局所脳梗塞を伴う国内最初の報告であるため、意義があると思われる。
 本症例の患者の場合、充填剤がない動脈の末端枝動脈のいずれかに入ってフィラーを注入する圧力によって内部の動脈と外頚動脈を経て逆流し、両側前頭葉に多発性の局所脳梗塞を引き起こしたとみられ、注入が停止した後に作用する動脈の収縮期血圧と還流圧により、内部の動脈を通した中心網膜動脈の閉鎖を引き起こしたと思われる。患者の視力消失が中心網膜動脈の閉鎖が原因であれば、脈絡膜の虚血性損傷と血流の障害は後毛様体動脈の閉鎖と関連がありそうで同時に引き起こされた外眼筋麻痺は、外眼筋と動眼神経に円滑な血液供給がなされていないことが原因である。
 フィラーを注入する過程で注射針が皮膚に深く浸透させないようにして、注入前に注射器を逆流させ、注射針の先端が血管内にいないことを確認する必要があり、局所血管収縮剤を注入して、血管の損傷を事前に予防し、可能であれば注射器やカニューレが小さいものを使用して、先端が鈍でありながら柔軟性のあるものを使用することが求められる。またフィラーの注入量と注入速度を最小化できるようにしなければならない。
 さらに、美容目的のフィラー注入術では施術前に患者に必ず視力消失や脳梗塞の危険性の可能性について十分に説明し、強調しなければならない。

(JHM120号より)

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