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予防医療の時代の幕開け

[ 2014/8/6 ]

健康水準を高め、医療費増大に歯止めかける

先ごろ、二つの興味深い報告がでた。運動と医療費支出の試算、そして健保組合を対象に後期高齢者支援金の減額・増額など新たな制度づくりである。いずれも国民の健康水準を高めながら、国の医療費増大に歯止めをかける狙い。後者はアベノミクスの第三の矢、成長戦略の一環で、こうした新たな医療、健康に関わる大胆な政策は安倍カラーを反映したものといっていい。本紙ではすでに、サプリメントの健康表示を条件つきで解禁する「食品の新たな機能性表示に関する検討会」(消費者庁)の動きを報じてきたが、これもまた成長戦略の一つであることはいうまでもない。規制撤廃により、より民間活力に委ねながら市場拡大を図るという、大きなうねりが押し寄せている。一方で近刊の週間ダイヤモンド『診療報酬改定が迫る医師・看護師の民族大移動~医師・看護師 大激変』を読むまでもなく、将来の超高齢少子化社会を見据えた医療提供体制の改革は待ったなしで、急性期病院の大リストラなど、国が進める診療報酬改定により医師・看護師は受難の時代に突入していくことは当たらずとも遠からずだろう。そして医療費削減のために、病院という「箱」から、介護、療養そして在宅療養型の医療体制にシフトしていくことになる。視点をかえれば、日本の医療は「病気を治す時代」から、より「病気をつくらない、老化、介護に対応する社会」に変えていくことに他ならない。まさに、「予防医療時代」の幕開けといっていいだろう。

阪大の医療経済学・田倉智之教授らがまとめた運動と医療費支出に関わる試算では、運動習慣のある40~85歳の人のかかる医療費が平均153万円少なくなるという。
 週3回以上スポーツジムに通う72人を対象に、肥満度、血圧、糖尿病の有病率などの健康データを収集して、医療費を推計した。試算は、過去の研究をベースに脳卒中や心筋梗塞などのリスクを計算して得られている。その上で国民の医療費支出の平均値と比べたものだ。
 40歳以降の医療費は一人あたり平均2000万円かかるが、運動習慣がある人は平均より153万円ほど少なくなる。
 この試算は、生命保険のモデル事業にも反映されることになり、「運動する人の保険料を割り引くといった保険プランも検討されている。金銭的なメリットは個人の健康づくりに意欲をたらすことは間違いない。その結果、国の医療費を抑えることになる」と、研究チームでは話す。

 一方、先ごろ発表されたアベノミクスの成長戦略に「健保組合を対象に後期高齢者支援金の減額・増額など新たな制度の見直し」が追加された。
 新制度として盛り込む改定案は、企業の健保組合に対して、「後期高齢者医療制度」上、働く世代が高齢者を支える支援金を健保組合から国に納めているものを、減額もしくは増額するものだ。因みに毎年、組合から国納めている支援金は1兆6000億円にのぼる。
 従業員の健康診断の受診率や、その診断結果、メタボの割合さらには病欠に伴う休職率などから評価し、改善が進む組合には支援額を減額することになる。改善が進まない場合は、逆に増額される。いわば飴と鞭の政策転換ともいえるが、〝次世代の後期高齢者〝の健康水準を高めながら、将来さらに膨らむ国の医療費に歯止めをかける狙いがあることはいうまでもない。

119号6面 写真こうした新たな医療、健康に関わる大胆な政策転換や制度見直しは安倍カラーを反映したものといっていい。また規制撤廃により、生保などの民間活力に委ねながら市場拡大を図るという、大きなうねりが押し寄せている
健康分野では、すでにサプリメントの健康表示を条件つきで解禁する「食品の新たな機能性表示に関する検討会」(消費者庁)の動きもあり(本紙既報)、これもまた成長戦略の一つであるが、この制度のモデルとなることが予想されるアメリカのDSHEA(ダイエタリー・サプリメント健康教育法)制定(1994年)の背景に、米上院のマグガバン上院議員がまとめたレポートがあったことをご存じだろうか?
当時アメリカでは心臓病、ガンが死因の1位、2位を占めており、97年には医療費1180億ドルに達し連邦政府の財政を圧迫していた。その打開策として設置されたのが、上院の「国民の栄養問題アメリカ上院特別委員会」で、結果、以後7年間におよぶ疫学調査や研究が行われることになる。世界中から医学・栄養学者を招聘、または連携しながらまとめられたのが、委員長の名前を冠した5000ページに及ぶ「マグガバンレポート」だ。
レポートでの結論は「どれほど医療費をつぎ込んでも事態は改善しない。病気のためにアメリカの国は破たんしてしまう。偏った食生活がもたらす食源病はクスリでは治らない」という、当時として衝撃的なメッセージを投げかけ、その結果、動き出したのがDSHEAさらには一般食品の健康教育法であるNLEAの法制化だった。
この制定以来、食生活指針を積極的に普及し、エビデンスに基づいた健康表示を一部のサプリメントに認めていくことで、アメリカでは疾病を減らしていく。
もちろん「病気」を治す医療はいつの時代でも不可欠であることはいうまでもない。だからこそ医療、医師そして医療人の役割と責任があり、その人材はどの国にとってもかけがえのない「財産」である。
しかし「病気を治療する、治す」ことと同じように「病気にならない」社会こそが、これからの国のかたちであろう。
まさに「予防医療時代」の幕開けといっていい。
医療提供体制は、もはや旧来のシステムでは成り立たないことは、先述のダイヤモンドの記事を見れば一目瞭然だ。そして、本紙が多くの紙面をさいて報道する「美容医療」でさえ、これからの姿は抗加齢医療に向かうはずだ。
つまり加齢によって起こる容姿の衰えを、予防として行う医療だ。決して「アウトロー診療科目」ではない。


(JHM119号より)

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