医科・歯科連携の解剖実習に手ごたえ [JHM]
[ 2011/10/19 ]
歯科経営の苦境の打開策がインプラント治療
トラブル回避のためにも歯科医も顎・顔面の解剖を知るべき
尾崎クリニック理事長 尾崎 雅征DDS
日本において、医師を養成する医学部の1年間あたりの卒業者数は7,500〜8,000人であるのに対し、歯学部単独で1年間あたりの卒業生が2,700〜3,000人である。卒業する医師は、あらゆる診療科目の総数であることは言うまでもない。つまりこの数字は、歯科医師の供給過剰を意味していることはだれの目にも明らかである。過剰にも関わらず、少子化による人口減少や、予防教育などにより齲蝕になりやすい子供の数が減ったうえに、定期検診などで通うことが少ないため歯科医院への受診は減っている。
この結果、全国的に歯科医院の過当競争状態となり経営が悪化し、さらには倒産・廃業にいたる歯科医院が増え、特に東京都内では1日1軒のペースで廃院に至っている。現在、全国統計でコンビニエンスストアより歯科医院数が多く (コンビニ数の1.6倍,2008年)、収益悪化の対策として日曜診療や深夜診療を行う歯科医院が増えている。
厚労省の2005年医療経済実態調査などによれば、歯科開業医(1医院の平均歯科医師数は1.4人)の儲けを表す収支差額の平均値は1カ月当たり120万円程度。これを歯科医1人当たりの平均年収に直すと約737万円になるが、歯科医師の4人に1人は年収200万円以下となっている。特に地方の歯科医師過剰地域では収入が減少して経営状態が悪化する傾向にあり、札幌市中央区の開業歯科医の平均年収は300万円以下となっている。帝国データバンクによると1987年度 – 2004年度に発生した医療機関の倒産は全国で628件あり、その約43%(268件)を歯科医院が占めている。厚生労働省の調査によれば、2007年度の推定平均年収は、約737万円となっており、国民の平均年収444万円よりも遥かに多いが、先行投資が必要であることを考えると、私立大学費や増加傾向にある開業資金などのかかった投資金額を引いた実質的な収入は一般的なサラリーマン程度である、との声がある。歯科医師の過剰による患者数の減少のために収入は減少傾向にあるため、歯科医師のワーキングプアとしてとりあげる報道さえある。
こうした現状に反して、歯科医師数は平成2年時と平成20年と比較すると約3割増加している。その間、医療制度改革で歯科医療行為あたりの診療平均単価が約15%減少した。国民医科医療費がその間(平成2年〜平成20年)、大幅増加(約20兆→約30兆円/年)だったのに対し、国民歯科医療費はほとんど増加していない(約2.5兆円/年のまま)。
この状況下において歯科医師は誰もがその打開策を探っているはずである。そこで注目を浴びているものに、自費診療である「インプラント治療」がある。しかし、それは顎骨に直接金属を植立させる方法を用いるため従来の治療とは比較にならいない程の正確さ、緻密さが求められる治療法でもある。残念ながら、安易に用いられている事が多く、その結果、色々なトラブルが生じているのが現状である。インプラント治療の実際は一次手術、二次手術、補綴修復処置、口腔衛生管理から成り立っており、その段階ごとに慎重な対応が求められるものである。
[平成20年6月26日産経新聞が報じた記事によれば、東京都中央区の歯科医院で昨年5月、人工歯根を埋め込む「インプラント手術」を受けた女性(当時70歳)が手術中に大量出血し、死亡した事件で、女性の遺族4人が歯科医院と院長を相手取り、約1憶9000万円の損害賠償を求める訴えを東京地栽に起こしていた。警視庁は業務上過失致死容疑での立件に向けて、現在、詰めの捜査を進めている。中略・・・訴状などによると、女性は昨年5月22日、手術中に出血が止まらなくなり、容態が急変、近くの総合病院に搬送されたが、すでに心肺停止状態で、翌23日に死亡した。司法解剖の結果、死因は口腔内の出血などによる窒息死と判明。ドリルであごの骨を貫通し、動脈を切断、大量出血した。
一次手術(インプラント埋入手術)はメスによる切開を行ない、骨を削除し、金属(インプラント)を埋入するものでこれは、医科の一般的な手術と何ら変わりがなく、血管、神経などを損傷しないことが鉄則である。顎・顔面のオペを行なう医師が知っておくべきことは、インプラントオペをする歯科医師も知っていなければならない。なぜならば、同じリスクを背負っているからである。
だからこそ、口の中からものを見ることが多い歯科医師は医科・歯科連携を図るべきだと思う。知識と技術を高めるとともに、視点を広げ、手術であるインプラント治療を安全に確実に行なう必要がある。とりわけ解剖とくにに血管(動脈・静脈)の走行を十分に理解していることは基本中の基本である。十分な解剖学的知識なしの歯科医師にはインプラントオペをする資格はないと言ってもいい。
先ごろ、医科・歯科連携のための「歯科インプラント解剖実習」(JAAS主催)を中国・大連のHoffenBio施設で実施した背景には、以上のような理由がある。医科の立場としてご指導を頂いた高田大阪大学教授は顎・顔面外科のspecialist で、理想的な医科・歯科連携のための解剖実習ができたことは喜ばしい。参加された歯科の先生方からも「インプラントの埋入に留まらず、形成の視点から上顎洞、下顎洞の解剖学的な構造をご遺体をお借りして確認させていただいたことは非常に参考になった」という声が少なくなかった。
私たち歯科医はレントゲン写真、CTで映らない軟組織中の重要な血管・神経についてもっと解剖学的に知っておくことが大切である。
来年には第2回目の解剖実習を予定しているが、インプラントの基本となるオペ手技の実習(基本的な埋入、抜歯即埋入、サイナスリフト、下歯槽管移動術、インプラント埋入、ボーングラフトのための骨採取、ボーングラフトなど)に加え、形成・美容外科の執刀見学ももちろん組み込む計画である。
(JHM101号より)
トラブル回避のためにも歯科医も顎・顔面の解剖を知るべき
尾崎クリニック理事長 尾崎 雅征DDS
日本において、医師を養成する医学部の1年間あたりの卒業者数は7,500〜8,000人であるのに対し、歯学部単独で1年間あたりの卒業生が2,700〜3,000人である。卒業する医師は、あらゆる診療科目の総数であることは言うまでもない。つまりこの数字は、歯科医師の供給過剰を意味していることはだれの目にも明らかである。過剰にも関わらず、少子化による人口減少や、予防教育などにより齲蝕になりやすい子供の数が減ったうえに、定期検診などで通うことが少ないため歯科医院への受診は減っている。
この結果、全国的に歯科医院の過当競争状態となり経営が悪化し、さらには倒産・廃業にいたる歯科医院が増え、特に東京都内では1日1軒のペースで廃院に至っている。現在、全国統計でコンビニエンスストアより歯科医院数が多く (コンビニ数の1.6倍,2008年)、収益悪化の対策として日曜診療や深夜診療を行う歯科医院が増えている。
厚労省の2005年医療経済実態調査などによれば、歯科開業医(1医院の平均歯科医師数は1.4人)の儲けを表す収支差額の平均値は1カ月当たり120万円程度。これを歯科医1人当たりの平均年収に直すと約737万円になるが、歯科医師の4人に1人は年収200万円以下となっている。特に地方の歯科医師過剰地域では収入が減少して経営状態が悪化する傾向にあり、札幌市中央区の開業歯科医の平均年収は300万円以下となっている。帝国データバンクによると1987年度 – 2004年度に発生した医療機関の倒産は全国で628件あり、その約43%(268件)を歯科医院が占めている。厚生労働省の調査によれば、2007年度の推定平均年収は、約737万円となっており、国民の平均年収444万円よりも遥かに多いが、先行投資が必要であることを考えると、私立大学費や増加傾向にある開業資金などのかかった投資金額を引いた実質的な収入は一般的なサラリーマン程度である、との声がある。歯科医師の過剰による患者数の減少のために収入は減少傾向にあるため、歯科医師のワーキングプアとしてとりあげる報道さえある。
こうした現状に反して、歯科医師数は平成2年時と平成20年と比較すると約3割増加している。その間、医療制度改革で歯科医療行為あたりの診療平均単価が約15%減少した。国民医科医療費がその間(平成2年〜平成20年)、大幅増加(約20兆→約30兆円/年)だったのに対し、国民歯科医療費はほとんど増加していない(約2.5兆円/年のまま)。
この状況下において歯科医師は誰もがその打開策を探っているはずである。そこで注目を浴びているものに、自費診療である「インプラント治療」がある。しかし、それは顎骨に直接金属を植立させる方法を用いるため従来の治療とは比較にならいない程の正確さ、緻密さが求められる治療法でもある。残念ながら、安易に用いられている事が多く、その結果、色々なトラブルが生じているのが現状である。インプラント治療の実際は一次手術、二次手術、補綴修復処置、口腔衛生管理から成り立っており、その段階ごとに慎重な対応が求められるものである。
[平成20年6月26日産経新聞が報じた記事によれば、東京都中央区の歯科医院で昨年5月、人工歯根を埋め込む「インプラント手術」を受けた女性(当時70歳)が手術中に大量出血し、死亡した事件で、女性の遺族4人が歯科医院と院長を相手取り、約1憶9000万円の損害賠償を求める訴えを東京地栽に起こしていた。警視庁は業務上過失致死容疑での立件に向けて、現在、詰めの捜査を進めている。中略・・・訴状などによると、女性は昨年5月22日、手術中に出血が止まらなくなり、容態が急変、近くの総合病院に搬送されたが、すでに心肺停止状態で、翌23日に死亡した。司法解剖の結果、死因は口腔内の出血などによる窒息死と判明。ドリルであごの骨を貫通し、動脈を切断、大量出血した。
一次手術(インプラント埋入手術)はメスによる切開を行ない、骨を削除し、金属(インプラント)を埋入するものでこれは、医科の一般的な手術と何ら変わりがなく、血管、神経などを損傷しないことが鉄則である。顎・顔面のオペを行なう医師が知っておくべきことは、インプラントオペをする歯科医師も知っていなければならない。なぜならば、同じリスクを背負っているからである。
だからこそ、口の中からものを見ることが多い歯科医師は医科・歯科連携を図るべきだと思う。知識と技術を高めるとともに、視点を広げ、手術であるインプラント治療を安全に確実に行なう必要がある。とりわけ解剖とくにに血管(動脈・静脈)の走行を十分に理解していることは基本中の基本である。十分な解剖学的知識なしの歯科医師にはインプラントオペをする資格はないと言ってもいい。
先ごろ、医科・歯科連携のための「歯科インプラント解剖実習」(JAAS主催)を中国・大連のHoffenBio施設で実施した背景には、以上のような理由がある。医科の立場としてご指導を頂いた高田大阪大学教授は顎・顔面外科のspecialist で、理想的な医科・歯科連携のための解剖実習ができたことは喜ばしい。参加された歯科の先生方からも「インプラントの埋入に留まらず、形成の視点から上顎洞、下顎洞の解剖学的な構造をご遺体をお借りして確認させていただいたことは非常に参考になった」という声が少なくなかった。
私たち歯科医はレントゲン写真、CTで映らない軟組織中の重要な血管・神経についてもっと解剖学的に知っておくことが大切である。
来年には第2回目の解剖実習を予定しているが、インプラントの基本となるオペ手技の実習(基本的な埋入、抜歯即埋入、サイナスリフト、下歯槽管移動術、インプラント埋入、ボーングラフトのための骨採取、ボーングラフトなど)に加え、形成・美容外科の執刀見学ももちろん組み込む計画である。
(JHM101号より)