サプリメント臨床試験へ着々進む [JHM]
[ 2011/1/6 ]
米国NCI(国立がん研究所)が行う、サプリメントなどによる「がんの代替療法」の科学的検証と臨床知見のデータベース化の取り組み(Best Case Series Program:http://www.cancer.gov/cam/bestcase_intro.html)に対して、日本でもその検証そして臨床への応用をめざし平成18年度から厚労省がん研究助成金「がんの代替医療の科学的検証と臨床応用に関する研究」が動き出した。研究の第1期で始まった、がん患者のサプリメント利用実態調査は、2期目からその有効性を実際の臨床例として調査、解析し、抗がん症例として報告されるもので、研究成果を報告する3期目の今年度、研究班のところには今までにない信頼性の高い臨床症例が集まっている。
サプリメントの有効症例の検証は、研究プロジェクト2期目(20年〜21年度)から始まった。しかし当初、研究班の意図する精度の高い症例は少なかったという。
背景には、情報を求めた臨床医は診療が忙しくできるだけ簡素化した症例報告の形式をとったこと。にもかかわらず基本的な報告項目にももれがあり、病理診断、画像診断などの情報提供は多くのケースで少なく、一方で情報の提供者の多くがサプリメントの販売者だったからだ。
がん患者を診る医師にとってサプリメントは怪しいものとする先入観は確かに強い。勢い患者も主治医に黙って摂取するケースが少なくない。こうした実態から、メーカーからの症例報告の情報提供が増え、研究班から記載もれの指摘を受けて初めて主治医のもとに有効症例に対する所見、画像診断のデータ依頼がくる。
早稲田大 先端科学・健康医療融合研究機構
大野智医師
こうしたがん代替療法におけるサプリメントのEBMは、その有効症例に信頼性を欠いた情報提供が多かったことから、研究班3期目(主任研究者:山下 素弘医師)からは第三者的立場で、より厳密に審査する方向で観察研究(診療録などの診療情報を収集、集計する臨床の現場における疫学調査)を行っている。
スタート1年目の昨年後半には、観察研究の意図に沿った情報が研究班に寄せられ、国立病院、国立系の大学付属病院の主治医からも、あるサプリメントの抗がん症例を示すデータが提出された。サプリメント単一投与による治療でも併用療法でも研究班はすべての症例データを受け付けるとしているが、この症例報告はサプリメント単体での有効性を示すものだったという。さらに、別の医療機関からは抗がん剤との併用でサプリメントを投与し続け、腫瘍が小さくなったとする症例も明らかになっている。
情報の受け皿となる研究班の実務を担う代表、大野智医師(早稲田大 先端科学・健康医療融合研究機構)は、自らも研究のかたわら産婦人科医としてがん患者を診てきた経験から、「抗がん剤投与の目安は最初の3ヶ月、そこで効かなければ治療方針を見直す場合が多い。この症例では抗がん剤で逆に腫瘍が肥大し投与を中止、その後サプリメントを使い出し腫瘍の縮小を確認しています。疑心暗鬼の目で見られがちなサプリメントで、こうした症例が意外と多く、症例調査をやってみて驚いています。もちろん提出された症例報告は、研究班が求める科学的検証のレベルをクリアしていることはいうまでもありません」と話す。
精度を高めた有効症例の医療情報は現在、全国の医療機関に対して研究班からマスメディアやホームページ(http://www.shikoku-cc.go.jp/kranke/cam/index.html)を活用する認知を進めながら集めている。医療機関から倫理委員会の承認、研究参加同意書をとりつつ、患者からの同意書も得て症例サマリーフォーマットに記載して、窓口となる大野医師に届けられる。研究班で一次審査を行うが、この際、抗腫瘍効果はRECIST基準においてCR、PR、SDが審査対象に、また悪性血液腫瘍はCRのみが審査対象とされる。QOL改善や症状の緩和などについても、血液検査値、質問表などの客観的指標で評価されていれば対象となる。
審査をクリアすると画像検査のデータや病理診断の提出へと進む。そして代替医療の治療効果の評価を判定していく。この二次審査で審査基準を満たすと判断されれば、この症例情報のデータベース化が行われる。
そして特定の治療効果を示す共通のデータが一定の蓄積をみた段階で、研究班の専門家により検討が行われ、当該サプリメントのがん患者に対する臨床試験へのゴーサインが出ることになる。国家予算を投じた臨床試験が、サプリメントで始まることを意味する。
一方、研究班では代替医療の理解を深めてもらうために、かねてから啓蒙向けガイドブックを作成、患者への普及版として「がんの補完代替医療ガイドブック」を2版まで発行してきた。この中でがん患者に多用される代表的なサプリメントも取り上げられ、アガリクス、プロポリス、AHCC、メシマコブ、サメ軟骨などについても紹介しているが、あくまで中立的で正確な情報を与えることが目的だとして、ほとんどの品目で有効性については公的な評価をしていない。
そして今年、医療従事者である医師、そして看護師、薬剤師への啓蒙を目的に新たなガイドブックを発行する予定だという。サプリメントを摂取する患者の情報の受け皿となる、こうした医療従事者に、さらに詳しい専門情報とりわけ科学的根拠や薬との相互作用、さらには販売する会社、履歴、製品情報などをできるだけ可能な限り掲載していくことになる。
サプリメントが社会的な評価を得ていくためには、まず医師、看護師、薬剤師など医療従事者が「色眼鏡で見ないで、まず向き合っていくことが大切だ」と大野医師。そうすれば科学的な検証によって、不確かなサプリメントは自然と淘汰されていくと強調する。
●本稿で掲載した研究班による最新の研究成果は、2月13日(日)開催されるjscam講習会「アンチエジング内科講座:がん診療と免疫・若返り」にて、大野医師を招いて明らかにされます。詳しくはJSCAMホームページhttp://www.npo-jscam.comから。
(JHM97号より)
サプリメントの有効症例の検証は、研究プロジェクト2期目(20年〜21年度)から始まった。しかし当初、研究班の意図する精度の高い症例は少なかったという。
背景には、情報を求めた臨床医は診療が忙しくできるだけ簡素化した症例報告の形式をとったこと。にもかかわらず基本的な報告項目にももれがあり、病理診断、画像診断などの情報提供は多くのケースで少なく、一方で情報の提供者の多くがサプリメントの販売者だったからだ。
がん患者を診る医師にとってサプリメントは怪しいものとする先入観は確かに強い。勢い患者も主治医に黙って摂取するケースが少なくない。こうした実態から、メーカーからの症例報告の情報提供が増え、研究班から記載もれの指摘を受けて初めて主治医のもとに有効症例に対する所見、画像診断のデータ依頼がくる。
早稲田大 先端科学・健康医療融合研究機構
大野智医師
こうしたがん代替療法におけるサプリメントのEBMは、その有効症例に信頼性を欠いた情報提供が多かったことから、研究班3期目(主任研究者:山下 素弘医師)からは第三者的立場で、より厳密に審査する方向で観察研究(診療録などの診療情報を収集、集計する臨床の現場における疫学調査)を行っている。
スタート1年目の昨年後半には、観察研究の意図に沿った情報が研究班に寄せられ、国立病院、国立系の大学付属病院の主治医からも、あるサプリメントの抗がん症例を示すデータが提出された。サプリメント単一投与による治療でも併用療法でも研究班はすべての症例データを受け付けるとしているが、この症例報告はサプリメント単体での有効性を示すものだったという。さらに、別の医療機関からは抗がん剤との併用でサプリメントを投与し続け、腫瘍が小さくなったとする症例も明らかになっている。
情報の受け皿となる研究班の実務を担う代表、大野智医師(早稲田大 先端科学・健康医療融合研究機構)は、自らも研究のかたわら産婦人科医としてがん患者を診てきた経験から、「抗がん剤投与の目安は最初の3ヶ月、そこで効かなければ治療方針を見直す場合が多い。この症例では抗がん剤で逆に腫瘍が肥大し投与を中止、その後サプリメントを使い出し腫瘍の縮小を確認しています。疑心暗鬼の目で見られがちなサプリメントで、こうした症例が意外と多く、症例調査をやってみて驚いています。もちろん提出された症例報告は、研究班が求める科学的検証のレベルをクリアしていることはいうまでもありません」と話す。
精度を高めた有効症例の医療情報は現在、全国の医療機関に対して研究班からマスメディアやホームページ(http://www.shikoku-cc.go.jp/kranke/cam/index.html)を活用する認知を進めながら集めている。医療機関から倫理委員会の承認、研究参加同意書をとりつつ、患者からの同意書も得て症例サマリーフォーマットに記載して、窓口となる大野医師に届けられる。研究班で一次審査を行うが、この際、抗腫瘍効果はRECIST基準においてCR、PR、SDが審査対象に、また悪性血液腫瘍はCRのみが審査対象とされる。QOL改善や症状の緩和などについても、血液検査値、質問表などの客観的指標で評価されていれば対象となる。
審査をクリアすると画像検査のデータや病理診断の提出へと進む。そして代替医療の治療効果の評価を判定していく。この二次審査で審査基準を満たすと判断されれば、この症例情報のデータベース化が行われる。
そして特定の治療効果を示す共通のデータが一定の蓄積をみた段階で、研究班の専門家により検討が行われ、当該サプリメントのがん患者に対する臨床試験へのゴーサインが出ることになる。国家予算を投じた臨床試験が、サプリメントで始まることを意味する。
一方、研究班では代替医療の理解を深めてもらうために、かねてから啓蒙向けガイドブックを作成、患者への普及版として「がんの補完代替医療ガイドブック」を2版まで発行してきた。この中でがん患者に多用される代表的なサプリメントも取り上げられ、アガリクス、プロポリス、AHCC、メシマコブ、サメ軟骨などについても紹介しているが、あくまで中立的で正確な情報を与えることが目的だとして、ほとんどの品目で有効性については公的な評価をしていない。
そして今年、医療従事者である医師、そして看護師、薬剤師への啓蒙を目的に新たなガイドブックを発行する予定だという。サプリメントを摂取する患者の情報の受け皿となる、こうした医療従事者に、さらに詳しい専門情報とりわけ科学的根拠や薬との相互作用、さらには販売する会社、履歴、製品情報などをできるだけ可能な限り掲載していくことになる。
サプリメントが社会的な評価を得ていくためには、まず医師、看護師、薬剤師など医療従事者が「色眼鏡で見ないで、まず向き合っていくことが大切だ」と大野医師。そうすれば科学的な検証によって、不確かなサプリメントは自然と淘汰されていくと強調する。
●本稿で掲載した研究班による最新の研究成果は、2月13日(日)開催されるjscam講習会「アンチエジング内科講座:がん診療と免疫・若返り」にて、大野医師を招いて明らかにされます。詳しくはJSCAMホームページhttp://www.npo-jscam.comから。
(JHM97号より)