臨床医に情報求める [JHM]
[ 2010/2/23 ]
厚労省研究班・東京女子医大・大野准教授
米国などでは国の公的機関が、国費を用いてサプリメントなどの機能検証を行っている。しかし、日本でもがんの代替医療について、厚生労働省の研究班が研究を継続して行っていることを、ご存知だろうか?しかも、広く臨床医から、有効症例の情報提供を呼びかけている。昨年スタートした『がん代替医療における有効症例の調査研究』について、この研究の代表者である、東京女子医大・国際統合医科学インスティテュート大野 智 准教授にお話を伺った。
健康食品の抗がん症例
『がん代替医療における有効症例の調査研究』は、四国がんセンターが中心になって行っている『がんの代替療法の科学的検証に関する研究』の一環として行われている。この研究では、これまで、健康食品がどの程度がん患者に利用されているかの実態調査や、パンフレットによる情報提供など、公正中立なスタンスで、がんの代替医療に用いられる健康食品の研究に取り組んできた。
そして、昨年末にスタートした『がん代替医療における有効症例の調査研究』は、いよいよ健康食品のがん治療に対しての効果を、直接研究していこうという試みの第一歩といえる。
この研究は、健康食品ががんに有効であるという症例報告を、医師に行ってもらい、一定の方向性が認められれば、研究班が臨床試験を行って、その健康食品の有効性を調査しようというもの。国の予算で、健康食品の有効性を調査するのだ。これまでにない画期的な事業といって良いだろう。
とはいえ、実際にどのように報告したら良いのであろうか?研究代表者の大野准教授は「診療を行っている先生方は、皆さん忙しいので、症例報告といっても、できるだけ簡略化して、箇条書きのサマリー程度にしてあります。」と書式を示してくれた。詳しくはHP、http://www.shikoku-cc.go.jp/kranke/cam/research/index.htmlを参照していただきたいが、患者の病歴、病理診断、画像診断について、記入例を参考に記入するだけ。
ただ、がん治療での代替医療の現場を考えれば、健康食品単一素材での治療という例は稀で、様々な治療と合わせて、健康食品が使用されている。何がしかの成果が得られても、それが健康食品の効果とみなせるのかどうかが、報告に値するのか悩ましいところだ。
それに対し「理想を言えば、単一素材であることが望ましいですが、単一素材に限定もしません。複合的に行われた治療での健康食品のデータも受け付けます。また、例えば末期の患者さんで、とりあえずこれだけ試してみたらと勧めた健康食品で、治療効果が出ないまでも、QOLの向上が見られたものなど、そうした情報が集まれば、と考えています。」
ここでいう単一素材というのは、単一の“製品”ということだ。この研究の実践的な部分は、これまでの国の研究のように、ビタミン○○とか、△△エキスというような、成分の機能性評価ではなく、患者さんが実際に飲んでいる、“健康食品の製品”を評価しようということだ。
では、どの程度の症例数が集まれば、臨床試験に移行するのか?「単純に症例数が多ければ、試験を行うというものではありません。質の高い報告が集まれば、5例の報告でも、臨床試験を行いたいと考えています。」のだという。
ただ、そのためには、「どの部位のどのようながんに、どの程度の摂取量で、どんな効果があったのかなど、似たような傾向の症例報告が集まることが理想です。」
そうした症例を過去にさかのぼって報告してもらいたい、というのが本研究の意図だが、今後、この報告のために、条件を統一して、特定のがんに健康食品を摂取してもらった結果でも、当然ながら受け付けてくれる。
つまりは、メーカーサイドから見れば、ある特定のがんに対して効果があるような製品があれば、それだけで、臨床試験への道は近い。事実、アガリクス・ブラゼイ協議会などは、その準備を進めているのだという。
「ただ、報告に際しては主医師の協力が必要ですし、安全性については、追加資料を求めることもあります。それに、最も強調しておきたいのは、まず、患者さんに本研究について理解していただき、症例報告の同意が得られていることが、絶対条件になります。」と、データ取りの強要があってはならないことを強調する。
こうした症例が集まり、実際の臨床試験はどのような形で行われるのであろうか?「臨床試験は100%研究班の予算で、研究班のそれぞれの分野の専門家が行います。製品を原価に近い形で購入させていただくなど、多少の協力はお願いするかもしれませんが、公正中立な形で、評価します。」のだという。
なんとも驚きの内容だ。繰り返すが、個別の製品ごとの機能性評価の治験を、国の予算を使って、第三者的に公正中立に行うという事業なのだ。
大野准教授は、日本補完代替医療学会誌の編集に長く関わってきた。健康食品の研究報告には、全て目を通してきたという自負を持つ。その一方で、自身が受け持つがん患者の約半数は亡くなっていく。そうした状況の中で「少しでも患者さんの役に立つものを探したい。より良い医療を提供したい。」という思いが、この事業の根幹となっている。
また、がん患者を受け持つ医師の多くは、健康食品は怪しいものという認識を持っている。そのため興味の対象外となっている場合が多い。しかし、がん患者の半数以上が医師に隠れて、何らかの健康食品を試している。大野准教授は「この事業を通じて、医師と患者双方にとって健康食品に関するコミュニケーションのきっかけになれば、と考えています。」と語る。
今の医療のように、疑わしきは排除する、では無く、正当に科学的に、健康食品を検証しようという姿勢には、感動すら覚える。
「画像診断で腫瘍が何%小さくなったなど、データの掘り起こしについては、我々の方で行います。」とまで大野准教授はいう。医師として、純粋に良いものがあれば、知りたいという気持ちに、メーカーも、医療従事者も、純粋に応えて欲しい、と心から思える。
これは、がんに関わる健康食品に投げかけられた、最高のチャンスであるかもしれない。
(JHM91号より)