09年アンチエイジング総決算 見えてくる今必要なアンチエイジング [JHM]
[ 2010/1/25 ]
今年の米国抗老化医学会A4Mでは、遺伝子やステムセルに関連する演題も多くみられたが、そのいくつかは、韓国などアジア発の技術であり、A4Mと日本のアンチエイジング医療の差は以前ほど感じられない。
また、ホルモン補充やサプリメントに加え、脂肪吸引やレーザーなど、美容的な施術のボリュームアップも日本と同様だ。
東京アンチエイジングフォーラムで、持続型ビタミンCサプリメントについて発表した岡山大名誉教授山本 格氏。世界初のビタミンC誘導体の開発者として、その研究内容は注目に値する。
11月22日、23日、第7回 国際臨床抗老化医学会議・展示が、12月10日には、米国でA4Mが開催され、抗老化医療の2009は一段落する。老舗のクリニックの移転拡張や、再生医療や遺伝子治療の拡大、歯科医療でのアンチエイジングの広がり、認知症や副腎疲労、肝解毒など臓器別のアンチエイジングやサプリメンテーションの定着、海外からの概念の上陸など、さまざまな話題を振り返り、今後のアンチエイジング医療を考える。
今年のアンチエイジング医療の話題で言えば、まず老舗のアンチエイジングクリニックが、続々と移転拡張を行ったことである。
これらのクリニックの移転後の診療内容の変化を見れば、今後のトレンドの一つの方向性が見えてくる。
今春に同じ赤坂に移転拡張した赤坂AAクリニック。旧名称の赤坂アンチエイジングクリニックから、AAクリニックへと名称変更しているが、これには2つの意味がある。一つは広告規制の問題でアンチエイジングという名称が使えなくなったということ。赤坂アンチエイジングクリニックがオープンしたのは、平成17年初頭。当時はアンチエイジングは診療内容を示すものではなく、一般名称として、クリニック名として活用することが許されていた。しかし、近年ではアンチエイジングは、診療内容を指すものとして、クリニック名や広告に使用できなくなってしまった。これはアンチエイジング医療が一般化してきたことを示している。
また、近年、赤坂アンチエイジングクリニックは、高濃度ビタミンC点滴とインディバによる局所温熱、オゾンによる血液クレンジング、培養白血球などを併用し、免疫療法にも、積極的に取り組んできた。このことから、幅広く統合医療的なアプローチを行うクリニックとして、アンチエイジングの名称をAAに変更している。
一方、泉岳寺から品川プリンスホテル内に移転した高輪メディカルクリニックは、高濃度ビタミンC点滴やEDTAキレーションなど、ソリューションの充実を図っている。
これまでの高輪メディカルクリニックでは、健康寿命ドックやサプリメントドックなど、検査診断と栄養指導、運動指導などを中心に行ってきたが、ソリューション強化のため、点滴療法の導入に踏み切った。
一方でEDTAキレーションなどの草分けとして知られる銀座オクトクリニックは、ファンケルとの提携による、血液診断や遺伝子診断とサプリメントを絡めた、事業展開を始めた。
高輪メディカルクリニックとは逆に、EDTAキレーションやホルモン補充、血液クレンジングなど、ソリューションが充実していたオクトクリニックでは、以前より行っていた遺伝子診断などを、ファンケルと共同で拡大させ、検査と生活指導がボリュームアップする形で拡大している。
現在では育毛外来やクリニック独自のサプリメントの開発など、新しい分野にも踏み出さしている。
これらのクリニックの方向から見ると、純粋な予防医学としてのアンチエイジング医療ではなく、統合医療の手法として、アンチエイジングが用いられるようになり、そして、検査・診断・治療という、通常医療のアプローチに近い方法論で行われ始めている。
自由診療では、患者は検査の費用負担を惜しむ傾向にあるが、必要な検査を行わなければ、施術の結果は出にくい。検査が必要であることを理解させる力量、もしくは検査費用を施術費用に上乗せしても、その価値を理解させ料金を負担させる、コミュニケーション能力の高さが、成功する理由のひとつかもしれない。
高濃度ビタミンCなど点滴療法
これまでの自由診療やアンチエイジング医療は、成功しているクリニックが、そのノウハウを明かすことはほとんど無かった。数年前までホルモン補充やEDTAキレーションについて、日本人に対しての用量は各クリニックごとの秘中の秘であった。
しかし近年では、そうした情報がオープンとなり、幅広く多くの医師が行うことの方が、メリットが大きいことに各クリニックが気づき、点滴などのレシピは様々な情報を得ることが出来る。
そうした傾向によって大きく広まったのが高濃度ビタミンC点滴だ。しかし、一方で、点滴ボトルの中身にばかり注目が集まり、せっかく公開されている組み合わせる施術や、サプリメントの情報がおざなりにされているのは悲しむべき点だ。
第7回東京アンチエイジングフォーラムでも、そうした点をポイントに講演プログラムが組まれていた。ビタミンC点滴に関しても、温熱療法や免疫療法、サプリメントなどの組み合わせるべき施術に重点を置いた。
中でも、ビタミンC点滴を行うものであれば、当然使用するべき経口のビタミンCサプリメントには、岡山大名誉教授でビタミンC誘導体を世界で始めて開発した、山本格氏に講演して頂いた。
点滴として活用されるまで、ビタミンCのサプリメントは、ほとんど省みられることのないものだったといえる。しかし、点滴が普及するにつれ、日常的なビタミンC欠乏状態では、点滴したときの血中ビタミンC濃度が維持できない懸念が出てきた。
一方で、経口によるビタミンCは、一時に大量に摂取しても、血中濃度を持続させることなく、30分程度の短時間で体外に排出されてしまい、1日に頻回の摂取が必要とされていた。
その問題を一挙に解決したのが、山本氏が開発したビタミンC誘導体だ。ビタミンCの2位にグルコースを結合させたビタミンC誘導体『AA‐2G』は、体内でゆっくり吸収され、血中濃度を保ち、効率よく細胞に利用されるビタミンCだ。
通常、経口で摂取されたビタミンCの細胞への吸収は、SVCTというビタミンC専用のレセプターによって律速される。『AA‐2G』は、細胞に利用されるために結合したグルコースを切り離すため、αグルコシダーゼの反応もその吸収の律速に関わるため、通常のビタミンCと比べ、2つの反応の関与によってなだらかに吸収され、効率的に利用される。
こうした有効にビタミンCを摂取できるサプリメントはまだまだ少ない。扶桑化学工業のビタミンC『持続型ビタミンC500&クエン酸』などが、山本氏のビタミンC誘導体を使用したサプリメントだ。
歯科診療とヒアルロン酸注入
今年の大きな出来事の一つに、歯科でのビタミンC点滴やヒアルロン酸注入療法の普及があることは間違いない。特にヒアルロン酸は、美容外科医ですら、歯科医の施術を推奨している。
その理由は、口唇部のシワは歯のかみ合わせの高さの減少や、口の内側から唇を支えるリップサポート力の減少によって促進されているからだ。
こうした歯科のトラブルを改善した後にヒアルロン酸注入を行わないと、その効果は持続しないのだという。
歯科・口腔外科の診療範囲である、いわゆる口唇部というのは、医学的には赤唇のみを指すのではなく、鼻底、ほうれい線、おとがい線の内側を指す。その範囲に限ってのヒアルロン酸注入は、歯科の範囲と捉えることが出来るのだという。
これらの講演については、11月の東京フォーラムでは、銀座・いけだクリニックの池田MDやこいで歯科医院の小出DDSが詳細を講演している。
歯科クリニックへの提案
歯科の施術として改めて見直して欲しい技術の一つがデトックスである。体内に蓄積される有害重金属の一つ、水銀の原因は歯科治療で用いられたアマルガムにあることは良く知られている。
それをデトックスすることは歯科として説明しやすいし、歯科医が行うべき自由診療として、推奨できるものだ。また、デトックスについては、銀座サンエスペロ大森クリニックの大森MDが、長年日本臨床抗老化医学会で講演を行っており、毛髪ミネラル検査や、α‐リポ酸の経口のキレートサプリメントや生活指導の方法が確立されている。
現在、これらのツールを一社で取り揃え、積極的に展開しているのが、兼松ウェルネスのメディカルユース事業部だ。同社は医療機関専門のサプリメントの総合卸で、毛髪ミネラル測定などもラインナップしており、院内告知のノウハウやツールなどもあり、これからサプリメントをはじめようという歯科医に対して、積極的に相談に応じている。
また、歯科でのデトックスではB&Sコーポレーションの『アルベックス』はもはや定番のサプリメントといって、過言ではない。
乳酸菌生成エキスを、液体のまま個食包装した『アルベックス』は、医療機関専用サプリメントとして、腸内細菌叢を整えるプレバイオティクスの草分けだ。
歯科で大きな転換点となったのは、予防という概念の導入だ。歯周病予防は、歯科でも積極的に行われているが、その罹患率は意外に高い。そこで、新たな歯周病予防の手段が必要である。
そのひとつが、韓国・延世大学歯学部が研究した、天然の香辛料から抽出した、水溶性の天然抗菌成分『Etiquette-BOR』だ。
東京アンチエイジングフォーラムでも、企業プレゼンテーションとして、発表されたこの抗菌成分は、他の天然抗菌成分と比較して、口腔内有害微生物に選択的に作用し、強い抗菌力を持っている。水溶性で、広範囲のpHや温度でも極めて安定している物質だ。天然物でこのような物性を持つものは極めて稀と言って良い。
Streptococcus mutansに対しては、天然の抗菌成分として活用されている緑茶エキスと比較して、約半分の濃度で同程度の効果を示し、メントールやチモールとの比較では、それらの7分の1の濃度で、それらと同程度の、抗菌活性を示す。
また、口臭の原因菌Porphyromonas gingivalisに対しては、緑茶抽出物やチモールの半分の濃度で同程度の抗菌活性を示す。
東京アンチエイジングフォーラムでは、この『Etiquette-BOR』を用いたキャンディが配布され、新たな歯周病予防の手段として、注目を集めていた。
日本型アンチエイジングの本命ブレインサポート
今年の大きな話題として、ブレインサポートサプリメントの本格始動がある。本誌○号の一面で紹介した『フェルガード』の台頭だ。
アルツハイマー治療で、アリセプトのサポートに活用されるサプリメントとして、100を超える医療機関で導入されている驚異的なサプリメントだ。名古屋フォレストクリニックの河野 和彦MDによるコウノメソッドとして、医薬品やサプリメントの用量設定や家族へのインフォームドコンセントの仕方までが、詳細にまとめられたプログラムとなっている。
『フェルガード』については9箇所の医療機関で143名の患者を対象とした臨床研究の結果が、老年医学(Vol.46,No.12:1511〜1519)にまとめられている。
また、先日行われた米国抗老化医学会A4Mでは、米国のキノコ系サプリメントの草分けとして知られるマイタケプロダクツインク(日本法人サンメディカ)は、ヤマブシタケから抽出した低極性画分=LMFによる、抗アルツハイマー作用について、静岡大学との共同研究の成果を発表している。
ヤマブシタケには、ヘリセノンやエリナシンという経口投与で脳内の神経細胞増殖因子の合成を促進し、認知症に対しての臨床応用が期待されている。
しかし、今回発表されたのは、先述したLMFに含まれる、アミロバンという新規成分で、ヘリセノンやエリナシンの作用機序と異なる、アミロイドβの毒性を抑制する作用が確認されたという結果について。
発表を行った静岡大 河岸 洋和教授らは、ヘリセノン類とアミロバンを含有するLMFの規格化・製造に成功し、そのin vivoでの効果と、進行中のヒト臨床試験について報告を行った。
その結果、中間報告ながら、MMSEやHDS-Rといった脳機能を測定するメディカルスコアについて、改善傾向が確認されつつある。
既に米国では『Amyjoban3399』という商品名で流通を開始しており、近日中にも、日本に導入される予定だ。
クリニックでの遺伝子・再生医療
これらの他に、東京アンチエイジングフォーラムでは、遺伝子検査や治療、ステムセルを用いた再生医療などが、メインテーマとして語られた。
そして、そこで紹介されたことの全てが、既に日本国内のクリニックで実際に行われていることだ。遺伝子検査もステムセルも、遠い未来の話ではなく、明日からクリニックで導入できるものになっている、そのようなメッセージを、東京アンチエイジングフォーラム・日本臨床抗老化医学会では発信し続けている。
先述したように、今年は老舗のアンチエイジングクリニックの拡張が、大変に目立った年である。これらのクリニックは、数年前から当時その意味すら分からないようなキレーション治療やホルモン補充を、手探りで行ってきたクリニックばかりである。
今、遺伝子治療やステムセルを診療に掲げることは、数年後の成功に繋げる一つのチャンスであることは、間違いない。
(JHM90号より)