120歳までのアンチエイジング!?の第一関門は、美容外科からのアプローチ [JHM]
[ 2010/1/7 ]
(医)銀座CUVOクリニック理事長 久保 隆之MD.phD
美容医療の将来像は、より効果高く安全な症例の経時的検証
多くの諸先輩の先生方に対して生意気にも、以下、美容医療を論じることをお許し願いたい。
美容外科クリニックを2005年春、銀座に開業してから丸5年が経過しようとしている。それなりに顧客層が厚くなり、安定した医院経営を継続出来るようになった。開業したての頃に比べれば精神的な余裕も得られうようになった今、これまでの自分の経験を踏まえ、今後の美容医療の展望を考察し、新たな発展を多くの先生方と共に目指そうと思う。
さて、私が美容外科へと転身したきっかけはこうだ。
ご存じの通り、医学は扱う疾患や部位により分別され、例えば外科領域では、腹部臓器を扱う腹部外科、心臓を扱う循環器外科、脳を扱う脳神経外科、そして筋肉、神経、関節を扱う整形外科や、皮膚を含めた組織再建を行う形成外科などがある。私は外科医となることを選択し整形外科で初期研修を5年間の行なった末、首から下の整形外科手術を一通りこなし、その解剖学的構造にも熟知することが出来た。そしていよいよ自らの専門分野を選択することになる。私の場合、これまで経験したことのない、顔面領域の外科的治療に大変興味があった。顔面領域の外科は、主に形成外科や耳鼻咽喉科、眼科など部位別に細分化されている。それは顔面の構造が複雑であり、その取り扱いには高度な専門性が要求されるからに他ならない。
整形外科医として初期研修を行った以上、再び形成外科等で初期研修を始めるのは重複する内容が多く効率的ではない。そう考えた私は、当時はどちらかというと特殊な分野と見なされていた美容外科に注目した。それは美容外科であれば、効率的に整形外科初期研修で習得した技術を生かしながら、顔面外科を包括的に学ぶことが出来ると判断したからだ。
そして今、多くの方々のサポートをいただき、そして何より患者さんからの評価をいただき一応の成功を収めさせてもらっている。
しかし一方で昨年、世界経済に激震を走らせたリーマンショックによって、日本そしてお隣の美容整形先進国・韓国でも、美容医療にマイナスの影響を与えている。数年前から親交を深めている大韓民国美容外科学会KSAS)副会長のLee医師が、先日私のクリニックを訪れた。Lee医師は韓国ソウルの美容整形のメッカ、江南区で成功を収めている韓国美容外科の将来を担う、働き盛りの美容外科医である。心臓外科医として活躍した後、美容外科医に転身した名医だ。
開業13年を迎えるLee先生だが、すでにリーマンショック以前に多くの失敗とそれを教訓にして、繰り返す社会経済の不安定要因に左右されない経営と治療哲学を学んできたという。
彼は私にこう話した。
「昔は数をこなして、お金を稼いでクリニック経営を安定させようとしていた。だが、数をこなすためには、治療手技が荒くなりかねず、結局患者からのクレームが増え、その対応で憔悴しきってしまう。だから、今は数を減らすことで、より丁寧な手技を行い、そして腫れにくい治療をおこなうようにしている」と。
そして治療後には、一杯酒を酌み交わせるような患者さんとの関係をつくるよう心がけているそうだ。
このコメントにこれからの美容外科のあるべき姿がある。それはインターネットにより、患者さんが多くの情報を得るようになり、病院で医師の話を聞く前に、冷静に品定めを出来るようになった。つまり、患者さんが医師を選ぶ時代になっていて、医師の信頼度や技術はもちろんのこと、痛みのない治療、安全な治療、腫れない治療を検索している。
そういった中で売り上げ重視で荒い治療を常に行っていると、マイナス情報が流れ、結局自分の首を絞めることになる。
人は本来、120歳まで生きれらるようデザインされていることが遺伝学的レベルで証明されている。この寿命をどのように有効に使か?
そのためには見かけが綺麗でなければいけない。その第一関門となるのが美容外科的アプローチなのだ。心理学の専門家に言わせても、外見上のコンプレックスを解消すると潜在的劣等感が解消され、明るい性格が得られ、抑鬱状態から解放されるための非常に有効な手段となるとのことだ。
私なりに考えるこれからの美容医療の姿はこうである。
1.クリニックの独自性
いわゆる差別化された強みは、独自の技術の場合もあれば、他には類のない行き届いたサービスのこともある。いずれにせよ、他院と異なる独自の顧客ラインを確保することが必要不可欠である。
2.低侵襲治療
かつての美容外科治療は、いわゆるメスを用いて皮膚切開を行う、侵襲度の大きいものが一般的であった。しかし、ある決まった顧客層だけの市場でもあった。こうした限られた美容医療の顧客層から、一般まで裾野を広げる時代に入っている。新しい顧客層を取り込むためにも、低侵襲治療を主体にクリニックを営むべきだろう。
3.根拠のある医療(Evidence Based Medicine)
潜在需要はまだまだ高い美容医療だからこそ、ビジネスチャンスを見いだし、ありとあらゆる美容医療器機、材料等が次々に現れる。しかし、その中にははっきりとした医学的根拠に乏しいものも少なくない。安全で効果のある器機や材料を取捨選択するのも、我々医療を提供する側の責任である。あくまで医学的根拠のあるものを提供することを忘れてはいけない。
4.信頼関係
医師と患者さんは信頼関係を基盤に診療行為が成立する。医師は患者さんを営利目的に不必要な治療を行うべきではない。あくまでも患者さんのためになる治療を行ない、良好なコミュニケーションが大切である。
5.安全性
治療は安全性重視を第一前提に行うべきである。
安全操作を下記、万が一事故などを起こすと業界自体規模を縮小してしまう。
6.情報開示
治療を受ける側が相当量の情報をインターネット等で容易に入手できる時代となった。必要な情報は公正に開示して、可能な限り患者に有用な治療を行うことがクリニックの信用につながる。
7.社会貢献にむけた医療
自分のクリニックだけが儲かるのではなく、積極的に医学会や研究会に参加して、自らの研鑽と多くの医師らとの交流を深め共に業界の発展のために努力していくことが大事。
8.若手層の育成
外科医が手術をできる期間は永遠ではなくいつか終わる。若手の育成は急務である。韓国には次の時代を担う若手が育っている。
9.国際間交流
美容医療は自由診療下での営業であるため、同業者は競合もあり、有益な情報を共有しにくい。だが、中国、韓国などのアジア近隣諸国であれば、顧客を奪い合うこともないので、情報をオープンにしやすい。また最新かつ有益な情報は日本国内よりも、むしろこういった国際交流から得られることが多い。海外トレーニングや国際学会等に積極的に参加して、有益な情報を得ることが今まで以上に重要になっている。
私は今、日本美容外科学会の学術委員を務めさせていただいている。黎明期にその道を切り拓いてきた先生たち、そして次代を担う後継の医師たちと共に、今後も美容医療のさらなる社会的な認知向上をめざし頑張っていきたい。
と同時に、来年初頭には数名の美容外科有志と新たなアンチエイジング外科のグループをつくり、新たな施術の実践・発表そして経時的な症例の検証によって、より治療効果が高く限りなく安全な美容外科術を共有するために尽力していくつもりである。
(JHM90号より)