再生医療は、「生き遂げる」世界(アンチエイジング)へ [JHM]
[ 2009/7/22 ]
21世紀の社会的基盤を構成するヘルスケア産業と新たな医療の仕組み。この分野を担う全ての関連産業と医療従事者にとって、責任の重さはさらに増すことになる。とりわけ「臨床抗老化医療」や「補完代替医療」などの予防医療に重点をおく新たな医療の潮流は無視できない。だからこそ、それと対応した診療体系と新たな医療技術が求められてくる。一方、こうした医療と健康・美容・診断評価技術がより密接な関わりをもつこともまた、明らかである。本稿では医療・健康・美容分野のオピニオンリーダー達に、これからのあるべき姿を論じていただいている。提言38回目は、医療法人 医新会 理事長 横山 博美MDに提言いただく。
一、はじめに 京都大学山中教授のiPS細胞のニュースが、NHKや各新聞、雑誌に、大々的に報道されて久しい。もともとES細胞を用いる再生医療は、人間の卵子を研究材料としたため、現在、国会で審議されている〝新臓器移植法案〟と類似した生命観、倫理観などの諸問題があった。山中教授の研究グループが開発した皮膚由来のiPS細胞は、ES細胞の抱える問題の大きなハードルをクリアしたので、その期待がふくらむのは当然であった。ところが、現在では、発癌性の問題、つまり発癌遺伝子(既に解明されつつある)のハードルをクリアし、臨床応用まで到達するには、五年から七年を有すると予測され、日本の厚生労働省、文部科学省、科学技術庁などの〝医療の世界戦略〟と〝省益〟の狭間に立たされている。
二、再生医療の私の価値観 人間が、いや、生命体が地球上に誕生すれば、生きること自体、死への前進である。いいかえれば〝産まれるから死ぬ〟のである。
再生医療は生命の流れである〝生老病死〟の生←老(アンチエイジング)生←病死(ピンピンコロリ?)の革命的な救世主(?)と私には思えてならない。 私事であるが、齢60歳、還暦を迎え、あと20数年、残りの人生の4分の1を、どう脱皮し結論づけ、死を迎えるか大命題である。死の数日前まで、否、死を迎える当日まで、できることなら、聴診器を握ったまま死ねたら本望であると思う。先日、国民栄誉賞を受賞された森光子さんが二つの事を話された。先ず、〝年を取って欲しい〟年の引き算である。そして〝死ぬまで放浪記の舞台に立ちたい〟つまり舞台の上で死にたいということである。 再生医療は〝生きっぱなし〟(ある高僧の生命観)の世界から〝生きと遂げる( 死の直前まで、やり遂げる生命観)世界へと、導いてくれそうである。 三、再生医療の臨床応用 現在、脂肪由来幹細胞の再生医療の臨床応用は、美容外科、整形外科、内科系各疾患、泌尿器科など各分野に拡がりをみせている。代表的な臨床応用例を列記すると
㈠、美容、シワトリ、ヤケド、シミ、発毛など
㈡、整形外科、OA(変形膝関節症)、脊髄損傷など
㈢、内科系、関節リュウマチ、糖尿病、腎不全、肝硬変、COLD(慢性の肺疾患)、脳梗塞、一部の癌、他、パーキンソン病なども研究中
㈣、泌尿器科、前立腺疾患、ED、尿失禁
㈤、その他、GVHDの治療にも用いられている。
これらの臨床応用は、韓国 の上場企業であるRNLバ イオ㈱とソウル大学李教授 グループが、動物実験によ る安全試験、毒性試験など の基礎実験(薬事法に基づ く実験)を経て、現在、美 容目的では、ソウルの7つ の直営クリニックで実施さ れている。また内科系や他 の疾患については、北京や 吉林省の延吉にある提携病 院、並びに最近、傘下に収 めた釜山の270床の病院で、 幹細胞の点滴療法、関節内 注入療法、内視鏡を用いた 膀胱頚部注入療法等が実施 されている。本年6月末ま でに、臨床例を分析し、ペ ーパーにする予定であると 聞いている。 四、再生医療のあるべき姿 再生医療は、倫理観、生 命観など幾つかの問題点は あるものの、猛スピードで 進化する医療の最先端分野 である。もともと陽気な性 格でポジティブ思考の私で はあるが、一抹の不安があ る。
第一は医療であるがゆえ に、厚労省の安全性(特に 発癌性の問題)有効性(臨 床効果の分析)などのEB Mの確保。 第二に適正な競争力の育 成が必要である。厚労省、 文科省、科技庁の省益優先 の綱引きがあっては弊害あ って、世界に向けての競争 力の低下を招きかねない。
第三に医療を提供する側 も、再生医療を提供する側 双方とも千載一遇のメディ カルビジネスチャンスと考えるべきではない。患者様やクライアントの立場に立ち、丁寧な蓄積された臨床例を、オープンな形式で効果判定をし、適正かつ適切な再生医療を育成する覚悟を持って欲しいものである。 心より脂肪由来幹細胞による再生医療が、人々の生きていくために、価値ある道標となるよう念願する。
(JHM86号より)
一、はじめに 京都大学山中教授のiPS細胞のニュースが、NHKや各新聞、雑誌に、大々的に報道されて久しい。もともとES細胞を用いる再生医療は、人間の卵子を研究材料としたため、現在、国会で審議されている〝新臓器移植法案〟と類似した生命観、倫理観などの諸問題があった。山中教授の研究グループが開発した皮膚由来のiPS細胞は、ES細胞の抱える問題の大きなハードルをクリアしたので、その期待がふくらむのは当然であった。ところが、現在では、発癌性の問題、つまり発癌遺伝子(既に解明されつつある)のハードルをクリアし、臨床応用まで到達するには、五年から七年を有すると予測され、日本の厚生労働省、文部科学省、科学技術庁などの〝医療の世界戦略〟と〝省益〟の狭間に立たされている。
二、再生医療の私の価値観 人間が、いや、生命体が地球上に誕生すれば、生きること自体、死への前進である。いいかえれば〝産まれるから死ぬ〟のである。
再生医療は生命の流れである〝生老病死〟の生←老(アンチエイジング)生←病死(ピンピンコロリ?)の革命的な救世主(?)と私には思えてならない。 私事であるが、齢60歳、還暦を迎え、あと20数年、残りの人生の4分の1を、どう脱皮し結論づけ、死を迎えるか大命題である。死の数日前まで、否、死を迎える当日まで、できることなら、聴診器を握ったまま死ねたら本望であると思う。先日、国民栄誉賞を受賞された森光子さんが二つの事を話された。先ず、〝年を取って欲しい〟年の引き算である。そして〝死ぬまで放浪記の舞台に立ちたい〟つまり舞台の上で死にたいということである。 再生医療は〝生きっぱなし〟(ある高僧の生命観)の世界から〝生きと遂げる( 死の直前まで、やり遂げる生命観)世界へと、導いてくれそうである。 三、再生医療の臨床応用 現在、脂肪由来幹細胞の再生医療の臨床応用は、美容外科、整形外科、内科系各疾患、泌尿器科など各分野に拡がりをみせている。代表的な臨床応用例を列記すると
㈠、美容、シワトリ、ヤケド、シミ、発毛など
㈡、整形外科、OA(変形膝関節症)、脊髄損傷など
㈢、内科系、関節リュウマチ、糖尿病、腎不全、肝硬変、COLD(慢性の肺疾患)、脳梗塞、一部の癌、他、パーキンソン病なども研究中
㈣、泌尿器科、前立腺疾患、ED、尿失禁
㈤、その他、GVHDの治療にも用いられている。
これらの臨床応用は、韓国 の上場企業であるRNLバ イオ㈱とソウル大学李教授 グループが、動物実験によ る安全試験、毒性試験など の基礎実験(薬事法に基づ く実験)を経て、現在、美 容目的では、ソウルの7つ の直営クリニックで実施さ れている。また内科系や他 の疾患については、北京や 吉林省の延吉にある提携病 院、並びに最近、傘下に収 めた釜山の270床の病院で、 幹細胞の点滴療法、関節内 注入療法、内視鏡を用いた 膀胱頚部注入療法等が実施 されている。本年6月末ま でに、臨床例を分析し、ペ ーパーにする予定であると 聞いている。 四、再生医療のあるべき姿 再生医療は、倫理観、生 命観など幾つかの問題点は あるものの、猛スピードで 進化する医療の最先端分野 である。もともと陽気な性 格でポジティブ思考の私で はあるが、一抹の不安があ る。
第一は医療であるがゆえ に、厚労省の安全性(特に 発癌性の問題)有効性(臨 床効果の分析)などのEB Mの確保。 第二に適正な競争力の育 成が必要である。厚労省、 文科省、科技庁の省益優先 の綱引きがあっては弊害あ って、世界に向けての競争 力の低下を招きかねない。
第三に医療を提供する側 も、再生医療を提供する側 双方とも千載一遇のメディ カルビジネスチャンスと考えるべきではない。患者様やクライアントの立場に立ち、丁寧な蓄積された臨床例を、オープンな形式で効果判定をし、適正かつ適切な再生医療を育成する覚悟を持って欲しいものである。 心より脂肪由来幹細胞による再生医療が、人々の生きていくために、価値ある道標となるよう念願する。
(JHM86号より)