JCEメディカルエステをプラニングする
「エステと医療の融合は可能?」
新田 まゆみ
「クリニカル・エステ」マーケティング・プランナー
(M&Fアソシエイツ 代表)
アンチエイジングは
患者の要望を医師が請け負う「注文医療」
痛みをケアするエステ術と接遇がポイントに
メディカルエステ施設は
看護師・エステティシャン共有の教育必要
最近、「“エステ”と“医療”の融合」という言葉をよく目にするようになりました。数年前まではエステと医療とは対立関係にあり、エステは経済産業省の管轄、医療は厚生労働省の監督下にあり、併設する場合も入り口は別にしなければならなりませんでした。
しかし昨今のアンチエイジング・ブームや美容医療と呼ばれる新しい分野の拡大により、互いに無いものを補い合う形で、メディカル・エステ、メディカル・スパ、クリニカル・エステという、新たなジャンルが生まれるに至ったようです。
消費意欲の高い20代、30代の女性向けの癒しやリラクゼーションに効果が実感できる美容医療をプラスして提供する施設や、富裕層、シニア向けに、アンチエイジングやメタボリック症候群に対応したエステメニューが用意され、内科、皮膚科、美容形成などを併設した大型施設などが、次々と誕生してきました。
アンチエイジング治療や美容医療は、病気ではない患者(=顧客)のQOL(クオリティオブライフ)を高めるための治療であり、患者の要望に従って医師が請け負う注文医療といえます。だから決定は患者の自己責任で、選択権も100%患者側にあります。常に患者側に立った考え方が必要で、治療に伴う痛みはなるべく避けるようにし、癒しやリラクゼーションをうまくとりいれ、接遇にも注意を払わなくてはならなりません。
そういった要請にある程度応じられるのがメディカル・エステやクリニカル・エステなのです。
本来エステティックとは単なる身体のケアではなく一人ひとりの持つ“美しさ”を内面から引き出すことにあります。(ちなみに“ソワン・エステティック”のソワン(Soin仏語)を直訳すると「配慮」「世話」「気付き」)。医療と美容は隔たりがあるようですが、両者とも「ヒトの持つ生命力を伸ばし、活力あるものにする」という共通項を持っています。
さてエステとは、正確には「エステティック」で、発祥は18世紀のマリー・アントワネットの時代だといわれています。「容姿」や「容貌」を美しくするための方法や技術をさし、それを行う場所をエステティック・サロン、行う人をエステティシャンと呼ぶようになりました。
日本では、創業明治28年のエステティック・シバヤマ(シバヤマ美容室)が草分け的存在だといわれています。ちなみにエステサロンの市場規模は約4000億円(2006年)で、サロン数は約14000軒(NTTタウンページのエステティックカテゴリーによる)、エステティシャンの数は推定3万人で、毎年2千人程度の入職者がいるといわれています。
発祥の地であるフランスでは45年も前からエステティシャンは国家資格(C.A.P.)とされ地位が確立していますが、日本はいまだエステティシャンの公的資格制度がないので、知識や技術のレベルをみるのに、専門学校や任意団体が出すディプロマを手がかりとするか実務経験で測る以外ないのが現状です。中には、世界標準を狙って、CIDESCO(シデスコ 33カ国加盟の国際組織で本部はスイス)の資格取得を目指すエステティシャンもいます。2004年12月現在で保持者は2022名を数えます。
エステティシャンは専門学校で皮膚科学や実技のほか、経営・関連法規、接客・マナー、カウンセリング・コンサルティングを学び、現場では経営や売上に対する責任が求められることもしばしばあります。
つまり、医療の現場、特に自費診療などで求められる患者へのアプローチや細やかな配慮、コスト感覚などをエステティシャンは身に着けているわけです。またサロンでは接遇のマニュアルや身だしなみのルールが徹底されているので、大方のスタッフは清楚でありながら華やかな雰囲気をかもし出しています。
メディカル・エステやメディカル・スパでは、看護師でありながらエステティシャンのような雰囲気で接遇ができるスタッフ、あるいはエステティシャンでありながら看護師に近い医学知識を持っているスタッフが求められています。こういったスタッフの育成が重要であることは間違いないのですが、難しい課題であることも確かです。
あるメディカル・スパで、看護師とエステティシャンに50時間のトレーニングを行ったところ、看護師は本人がやりたいといって始めたのにもかかわらず途中で自信を失い、結局クレンジングよりさきの施術に進めませんでした。一方、エステティシャンは半数以上が医学的な授業についていけずに授業の方法を何度も変えましたが、結局芳しい成果は得られないまま終わってしまいました。そして両者とも仕事のモチベーションが低下して活気がなくなってしまいました。新しいシステムを成功させるのは容易ではなく、多くの試みが必要で、痛みを伴う覚悟も必要です。
日本人は今、物に付帯する心を満たす何か求め、肉体や精神など自分自身に対する投資へと消費の形が変わってきている。メディカル・エステ、クリニカル・エステはそれに応える次世代施設になりうるのか。
その成功の鍵は、先進性と共に安全な医療の推進と、施設スタッフの教育にかかっているのではないでしょうか。
【美容医療とコスメティック事情】
美容医療とは、「美容外科、美容整形」と呼ばれる外科的手術を要するジャンルと、メスを使わない「美容皮膚科」に区別される。美容皮膚科では、ケミカルピーリング゛やレーザー・光などのエネルギーを利用した治療機による肌の若返り、脱毛・シミ除去、プチ整形と呼ばれるコラーゲンやヒアルロン酸などの注入などが行われる。日本国内の施術患者数は2002年には約170万人であったのに2005年には約480万人に増え、3年間でおよそ2.8倍と大きく伸長している。(資生堂推計)米国の2004年統計によると美容手術(外科的治療)約174万件に対して切らない療法は約747万件で、美容手術がほぼ横ばいの成長であるのに対し、切らない療法はさらに増加を続けている。今後もこの傾向は長期的に続くと予想される。
日本では調査によると7割の女性が美容医療に興味・関心を持っているにもかかわらず、未だ経験者は1割にとどまっており、今後の成長が期待できる分野であるのは間違いない。普及に伴い、医療機関との関連を持って開発・提供されている「ドクターコスメ」と、医療機関向け(院内施術用商品とホームケア化粧品)の市場規模は2005年で約100億円、これに一般に市販されているものを加えると約230億円とも見込まれ、この5年で約2倍に急伸長している。
【エステの利用状況】
エステを利用する女性と男性の比率はおよそ7:1。ちなみに男性市場はここ数年著しい伸びを示している。女性の施術の内訳は、美顔市場が47.5%、痩身・ボディ市場が37.2%、脱毛市場が12.8%、その他が2.5%となっているが、各市場とも前年比で約1%ダウンしている。(エステティックサロンマーケティング総鑑 2007年版より)